お前が、泣いていたからだ

「チョージ。部屋から出ろ」


 あれから三日が経った。


「部屋から出てこい」


 ジーガルが呼んでいる。珍しいな。この時間はパンを作っているはずだ。


「なにさ?」

「腹減っているだろう。食え」


 その手には不格好なパンが並んだ皿があった。ジーガルの新作かな。


「ごめん。今は何も食べる気がしないんだ」

「そう言い続けて三日経っている。いいから食え」

「わかったよ」


 しぶしぶパンを取り、口に運ぶ。


「しょっぱいなぁ。誰が作ったのさ」


 この味はジーガルが作るパンの味ではない。


「皆だ。フーロ達が作ってくれた」

「へえ」

「お礼、言っておけよ」

「待って」


 立ち去ろうとするジーガルを、僕は呼び止める。


「どうした?」

「ジーガルはさ、どうしてあの時僕を助けてくれたの?」

「決まっているだろう」


 彼は階段を下りる直前でこちらを振り返る。


「お前が、泣いていたからだ」

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