チョージ・ワラヅカだ

 《音楽姫ビートマタ》。


 十年前、エルレシアン大戦争を終わらせた存在。


 ロストテクノロジを再現することで誕生した機械人形。その名の通り、音楽の力を自在に操ることができる。ドラム型、シンバル型などの楽器に対応した個性を持つとのこと。


 学者達の話によると、《焔奏怨負インフェルノーツ》も音に関係する存在であるようだ。《焔奏怨負インフェルノーツ》と起源が同じとしか考えられないようなロストテクノロジの遺産を対抗手段として使用するのは危険だと思う。最近の国の指導者たちは何を考えているのかわからない。


「戦いは終わっていません。《焔奏怨負インフェルノーツ》を根絶するまでは、戦争は終わらないのです」


 エルレシアン大陸の戦争が終わってから、大戦奏時代サウンドセンチュリーと呼ばれる、音楽が作っていく時代になると経済学者達は言っていたような気がするが、さてさて。


「こちらです」


 王女に案内され、城の地下にある研究施設を訪れた僕達は一つの部屋に入る。そこは普段日常では見慣れない、ロストテクノロジの遺産で溢れていた。


「あ――」


 パスタちゃんの小さな声。その視線の先には、棺桶のような機械が置いてあった。


「彼女が?」

「ええ。アンサンブル・シリーズの――指揮杖型音楽姫メジャー・ビートマタです」


 棺桶のような機械に近づく。表面はガラスのようなもので覆われている。


 僕は、その中を覗いた。


「眠っている、のか」


 その機械の中に、一人の少女が眠っていた。目を閉じ、手を胸の前で組み、眠っている。


「本当に――」


 本当に眠っているのだろうか。いや、機械人形に眠るという概念はないかもしれないが。


 それにしても――外見が人間にしか見えない。本当に機械人形なのか。


 ロストテクノロジという未知が、僕の心を満たしていく。この感情は、何だろう。


「起動します」


 王女の指示で、周りの研究者達がいろいろ機械を操作し始める。コンピュータと呼ばれるロストテクノロジの遺産が忙しそうに稼働するその姿が印象に残る。


「あ――」


 ゆっくりとガラスの棺桶が開き、少女が出てくる。ゆっくり、ゆっくりと歩きだす。


「おっと」


 少女はまだ歩き慣れていないのか、躓いて僕の胸に倒れ込む。


 彼女はゆっくりと目を開けた。その瞳はしっかりと僕を見ている。

照れるじゃないか。


「素敵な、笑顔」


 この顔は元々こういう顔だ。褒められても実感が湧かない。


「でも少し、苦しそう」


 そういうお前は愛想がない顔をしているな。可愛いから許すけど。


「あなたが、主人マスター?」

「ああ」


 僕はぎこちなく右手を差し出し、少女に握手を求める。


「チョージ・ワラヅカだ。君を奏でるために、ここに来た」

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