第2話 猫

 俺が働いていた会社にAさんという人がいた。

 50代。子供は2人いて、中学3年生と高校3年生。

 週3でパートの仕事をしていたが、傍らで保護猫の里親ボランティアをしていた。

 会社にも保護猫のチラシを持ってくるような有様だった。

 半分の人は迷惑がっていたけど、半分はかわいそうだと思って募金したりしていた。


 猫の保護費はこんな感じ。1匹当たりの猫の餌代が月1000円くらい、猫のトイレの砂や衛生用品1匹当たり月1000円、猫の部屋のエアコン代が月5000円くらい、腎臓の悪い猫の場合は、病院代が年間30万円くらいかかる。猫は7-8歳になると3-4割が慢性腎臓病にかかっていて、相当の病院代必要らしい。俺の母親が猫を飼っていたけど、そういえば、病院には行ってなかった・・・。


 Aさんはかわいそうな猫の里親を依頼されると、断れず、腎臓病の猫をすでに4匹も抱えていた。その他に元気な猫が4匹いて、計8匹を育てていたんだ。


 社会保険の扶養の範囲内(年収130万円まで)で働いていたが、稼ぎは全部猫の保護費に消えていった。足りない分は募金と家計から賄った。自宅は旦那名義の一戸建て。4LDK。一部屋は猫専用になっていた。


 リビングにはいつも猫がいるから、家族はリビングにいつかなくなってしまった。

 夕飯も別々に自室で食べる。キッチンで食べていると猫が寄って来るからだ。食事は惣菜やレトルトが多かった。Aさんは猫の食事の準備に時間がかかったからだ。


 別に猫がいても、きれいに掃除していればいいのだが、Aさんは片付けが苦手で、家中が散らかっていた。

 さらに、猫たちは多頭飼いのストレスで走り回って喧嘩したり、家のあちこちに尿をスプレーをして歩くようになっていた。


 家族とたまに顔を合せても、Aさんの話題は猫の話ばかり。だから誰も寄り付かなくなっていた。

 旦那は部長で結構稼いでいたけど、猫屋敷の1室で小さくなって暮らしていしていた。


 元々家族は猫を飼うのに反対だった。


「もう、これ以上猫を増やすなよ。増やしたら捨てて来るからな」と旦那。

「そうだよ。猫と家族とどっちが大事なんだよ。家中臭いし、猫の毛だらけだし」

 高校生の息子も父親に味方した。

「私もこの間学校で猫臭いって言われた。嫌だよ、こんな生活」

 娘は泣いていた。


「ここで飼ってもらえなかったら、猫は保健所行きなんだよ!あんたたちは血も涙もないのか!」と、Aさんは家族を責めた。

「生きるか死ぬかなんだよ!我慢してよ」

 猫の里親を反対されると、Aさんはヒステリーを起こした。

 そして、腹を立てて、もう何年も猫の部屋で寝起きしていた。


「お父さん、僕もう耐えられない・・・大学から寮に入る。バイトして寮代はらうから」

「え!お兄ちゃんいなくなったら、私もここにいたくない!」

 妹が叫んだ。いつも制服に毛が付いていると言われて困っていた。

「俺ももう家出したいよ。もし、バイトするんだったらさ、何万か入れてくれるなら3人で暮らそうか?」

 父親も最近鼻がムズムズして、耳鼻科に相談して抗アレルギー薬を出してもらっていたんだ。


「俺も猫アレルギーになっちゃったし。もうここにいるの無理だ」

「うちはごみ屋敷で猫屋敷だよ」と兄。

「お母さんどうするの?」と妹

「知らないよ。ボケても猫の介護してればいいんだ」と父が言い捨てた。

 こうして、3人は本気で家出を検討し始めた。


 Aさんは何も知らない。ずっと保護猫のことで頭がいっぱいだったからだ。

 それと、どうやって保護費を工面するを日夜考えていた・・・。

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