第13話 スカートの中から飛び出て、じゃじゃじゃじゃん!

「我が子らよ、しばらく見ぬ間に其方たちも一段と貫禄がつきましたね。母として妻として喜ばしい限りです。ところで此の度は

ナニ用でしょう。今更、妾の様な愚かな婆を頼るようなことが有るのでしょうか?」

「ナニを仰いますか。我ら兄弟は、もはや老いさらばえ、昔のように三人で戯れること相成りません……」

 しまった。その一言は聞き捨て成らなかった。愛しのマルヤム様が、僕のだけのシフタークーン様が、若いイケメン二人に挟まれて、あんなことや、こんなことをするところが思い浮んだ。思い浮かんだのではない。見えてしまった。僕は傷心と興奮に身悶えする。目から涙がこぼれ、体の一部を濡らしてしまった。

 伯爵と子爵は言葉を続けた。

「……しかし、マルヤム様は未だお若く、美しさにも益々磨きがかかっております。我ら兄弟の娘の如くです。誠に恐れ乍ら、一つ提案がございます。申し上げて宜しいでしょうか?」

「くるしゅうない。申してください」

「我ら兄弟は、もはや老いさらばえ、現つ女神たるマルヤム様の為にお勤めを果たすこと相成りません。そこで、我らの一族から新たに夫を迎えるのは如何でしょうか?」

 僕はマルヤム様の太腿を指でなぞった。「ヤダヤダヤダ!」と。すると「チャルブよ、安心しなさい」という御言葉が心に伝わった。ような気がした。僕は少し落ち着いた。


「そのような心配をしてたのですね。心遣い有難く思います。でも、もはや案ずるには及びませんよ」

「マルヤム様、如何なる仕儀でございましょうか?」

「其方たちは、この国の二本の御柱です。其方たち兄弟は、我が子であり、我が夫です。其方たちだけには、内々に話しておきましょう。そして、善き日取りを選んで国中に布告するのです。謹んで我が言葉を聞きなさい」

「ははっー!」

 伯爵と子爵は改めて平伏して拝聴した。マルヤム様の権威と権力って絶大だったんだな。

「話す前に一つ問います。我が名は何という?」

「マルヤム様です。我らが大いなる母神様と同じ御名でございます」

「それを踏まえた上で、我が言葉を聞くが好い」

「ははっー!」

 伯爵と子爵は絨毯に額を擦りつけた。まるで、コウモン様の前に土下座する悪代官の様である。僕は甘いコウモン様の下に居る。


「それは、先の満月の宵でした。私は月の塔の屋上で祈りを捧げている時です。突然、月の光が落ちてきました。光は、私に向かって降り注いできました。そして、光は槍になって、私のお腹を刺しました。しかし、光の槍は私のお腹の中に浸み通るように消えていきました。そして今でも、私はお腹の中に光を湛えているのです」

「畏れながら、如何なる意味でしょうか?」

「ならば、面を上げよ。光あれっ!」


 眩しい!!

 僕の体中が光り輝いた。スカートの中が昼間の様に明るくなった。やがて、光は徐々に消えて行く。しかし、スカートの中は明るいままである。

 僕の目の前で、伯爵と子爵が目を丸くしている。いや、伯爵と子爵と目が合っている。僕はスカートの外に居る。丸裸のまま四つん這いになっている。僕は何と申し開きしたら好いのだろう?


「もしや、イーサー様が復活されたのでしょうか?」

「その通りです。私は待った。百年待ったのです。さぁイーサー立って挨拶なさい。お前にとって、義理の父、義理の兄たちですよ」

「はい、ママ……えっーと、お父さま、お兄さま、はじめまして。ふつつかものですが、よろしくおねがいします」

「これはこれはイーサー様、こちらこそ、お初にお目にかかり、ご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じ上げます。生きてる間にイーサー様の御姿を拝見できるとは、我ら兄弟一生の誉れにございます。我ら兄弟を義父義兄と仰られました。身に余る光栄にございます。我ら兄弟命ある限り、マルヤム様とイーサー様に忠誠を尽くす所存にございます」

「伯爵殿、子爵殿、其方たちの心遣い痛み入ります。この子は、成りは大きくても中身は未だ子供です。このままでは人前には出せません。このことは、ここに居る者しか知りません。しばらく時間をかけて、私がしっかり養育します。イーサーのこと、くれぐれもよしなに。其の方たちだけが頼りです。この度は御足労をかけ大義でした」

「はは、有難き御言葉痛み入ります」


 マルヤム様は御御足を前に差し出した。すると、伯爵と子爵は恭しく御御足に接吻し、改めて深く頭を下げて退出した。 


「イーサー、おどおどしてどうしたの。今日は冷や汗かいて体がコチコチじゃない。怖かったのね。よちよち、ママが慰めてあげるから、落ち着いてね♡」

 マルヤム様は僕を宥めながら、御部屋に戻った。マルヤム様の方が、僕よりも少し背が高い。童貞を捧げて一人前の男に成るどころか、ますます半人前のヘタレ、それどころか幼児退行していく。マルヤム様の傍は居心地が好すぎて絶対に離れらない。


 伯爵と子爵が、あんな反応を示すのは意外だった。豹変して、僕のこと殺すのかとビクビクしていた。それよりも、怖いのはビビアンである。僕を見る眼差しが、より冷たく、より鋭くなっている。マルヤム様から離れたら、ナニをされるのか判ったのもでは無い。

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