第9話 読み書き手ほどき、また筆おろし?

 ママという愛称の問題で話がそれてしまった。そういえば、イフリンジャのことにつて尋ねようと思っていたのだ。

「あの、ま、ママ、イフリンジャの国の歴史の本とか有りませんか?」

「この国の民はお馬鹿だから、誰も本なんて書こうと思わないわよ。読み書きのできる者も極僅かです。この国のことだったら、私に聞きなさい。この国に私以上のなど殆どいませんよ」

 マルヤム様以上のなど世界中探してもいないと思う♡

「そういえば、イーサーって、イフリンジャの建国の英雄の名だって仰ってましたよね?」

「そうよ。そしてイーサーの母にして妻の名がマルヤムよ。お前を見た時、イーサーって名前が浮かんだの。無意識のうちに二人の運命を言い当ててたのかもしれませんね」

「母にして妻って?」

「母にして妻がナニかおかしいかしら?」

「母と子が結婚して好いんですか?」

「母と子が結婚するなんて素晴らしいことよ。この国では好くあること。どうしていけないのかしら?」

「僕の居た世界では禁忌だったんです」

「確かに、人間や家畜を近親交配させると好くないわよね。私たちペリーギャーンには関係ないは。人や獣と一緒にしちゃダメよ。純粋で濃い血は尊きもの。人と如きと違って悪い影響は出ないわ」

「でも、この国の人間はダメになりませんか?」

「この国の民は元々ダメな者たち。もっとダメになった所で、これ以上悪くなることは有りませんわ」

「ママは、この国のことが嫌いなんですか?」

「そうよ。故郷を滅ぼした国を好きになれて?」

「そうですよね。僕も故郷を滅ぼされているんですよね」

「お前は、この国のこと好きなの?」

「好き嫌い以前に、この国のことを全然知りません。だから知りたいんです」

「お前は賢いわ。好奇心のある子は好きよ。この国の民には好奇心なんて無いもの。ところでさっき、本読みたいって言ってたわね。お前は読み書きできるのかしら?」

「あ!?……たぶん出来ない筈です」

「なら、私が手とり足とり教えてあげるわ」

 早速、マルヤム様に拠る濃密な個人教室が始まることになった。昨晩、別の意味の筆おろしをして貰い、今日からは新たな筆おろしが始まった。

「読み書きを勉強しながら、歴史のことを教えてもらえると一挙両得ですね」

「ご免なさい。今すぐには思い出せないの。月明かりの下、喜びの中で心を解き放った時、心の奥にしまわれた記憶の扉が開かれるのです」

 夜のお楽しみの時に、この言葉の意味が判った。


 今朝、屋上庭園に上がったのは、御花摘みが目的であった。御花摘みの時に積んだ草花を煎じて飲みながら、読み書きの手ほどきを始めた。

 そうしていると必ずビビアンの邪魔が入った。

「奥方様、私にも教えて下さい」

「あなたは子供の頃、途中で投げ出したではありませんか?」

「あの時の私は愚かでした。どうか過ちに罰を与えて下さい」

 とか何とか言って、マルヤム様に構ってほしいだけであろう。


 夜中ばかりでもなく、昼間にも、やり甲斐のある仕事が見つかった。僕は先ず文字をマスターし、マルヤム様の口伝えを文字に起こして本に纏めるのである。まだ完全ではないが、一日でかなり憶えられた。少なくともビビアンのレベルは追い抜いてしまった。ビビアンは決して馬鹿では無い。マルヤム様の言いつけを一言も間違えずに諳んじて実行する。記憶力は抜群なのである。文字の学習など二の次で、構ってもらうことが最大の目的の様だ。

 昨晩の様に夕食を取り、ビビアンを寝かしつけると、秘めやかな楽しみのお時間が始まった。

「読み書きのおさらいをしましょう。どれだけ憶えられたか試すわよ」

「はい、でも暗くて文字が見えにくいですが?」

「暗いからこそ好いのよ。好きなところに何でもいいから書いてみて」

 そう言って、マルヤム様は全裸を晒した。好きなところを指でなぞるのか!?

 胸やお腹、背中、お尻や腿を指でなぞりまくった。凄いことに、マルヤム様は全て当てた。書き間違えも、きちんと把握していた。指先がツボに触れると甘い声を漏らした。

 僕も体中を指でなぞられた。しかし、全くわからなかった。一晩くらいじゃ、殆ど覚えられなかった。ただ、擽っくて気持ち好った。

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