第10話:お礼と不治の病

「先日はありがとうございました」


 やってきたサンスベリア家。

 南部のリーダー的存在であるブラオ家の屋敷に比べるとスッキリした印象だ。


「いえ、お気にさらず」


 下心満載での行動なのて純粋な感謝は胸が痛い。


「本当に嬉しかったのです。 貴族の集まりで私は邪険にされることが多いですから。 その理由を考えれば仕方がありません」

「エリクサーですか?」

「はい、馬鹿で面倒な女だと思われているんでしょうね」


「すみません、つまらない話をしてしまって」令嬢フェミニーナは微笑んでそう言った。


「それでお礼をお渡ししたいのですが、お家の方からラビリス様は変わった物がお好きとお聞きしまして」


 彼女はテーブルに置かれた包みをほどく。

 出てきたのは七色の光を放つ鉱石だ。


「おお! 美しい!」

「お気に召していただけたようでなによりです」


 この鉱石はサンスベリア家の領地で掘り出される鉱石らしい。

 見た目は美しいだけで、脆いため宝飾品にもならず、活用法がないためただの石ころと同じ価値しかないらしい。


「すごい魔力の含有量だ……」

「ええ、ですが残念ながら現在の魔法技術ではこの魔力を引き出す技術は見つかっていないのです」


 俺ならこの魔力を使える確信があった。 これはダンジョンマスターにとって金よりも価値のある宝だ。


「これは素晴らしいものです」


 想像以上に楽しいお茶会になりそうだ。




 もっと欲しい、しかし俺には自由できる金はない。 というか使う時は執事を通さなければならないので、金はあるが無駄使いができないのだ。


 この鉱石はただ同然の価値だ。

 しかし採掘の人件費や運送の費用を考えると大量に手に入れることは難しい。


 なんとか買い取る以外の方法はないだろうか。


「これはぜひ何かお返しをしたいのですが、フェミニーナ様のお好きな物は何かありますか?」

「そうですね、ではエリクサーについて何か知っていることはありませんか?」


(そうなるよな……)


 伝奇なんて興味もなかったから、調べたこともない。


「……」

「そうですよね、大丈夫です。 慣れてますから」

「ちなみに姉君はどのような病なのでしょうか?」


 ここまで来たらなんとかしてしまいたい。


失魂しっこん病です。 ある日、体は動かなくなり意識も消えてしまう病です」


 話によるとそれでも死ぬことはないらしい。 ただ息をしているだけ。

 食べることも排泄もしなくなり、魔力だけで生きることから精霊化しているとも云われるようだ。


「分かりました。 申し訳ありません、少し外してもよろしいですか?」


 最低限の情報は集まった。

 俺は客間へ案内してもらい、ソファーに横になった。


「しばらく誰も入れないでくれ」

「若、そんなに眠かったんですか?」

「いや、図書館に行ってくる」


 俺はそう言って目を閉じた。



 ダンジョンスターとは神に創られた存在であり、寿命がない。


 しいていえばダンジョンが攻略された時が寿命だろう。


 故に永いときを生きても狂わないように、ダンジョンマスターには用意されているものの一つが脳内図書館だ。


「相変わらず気味の悪い場所だな」


 世界中の蔵書が、加えて異界の蔵書まで取り揃えられている。 


 これは娯楽施設であり、ダンジョン創りのヒントを探す場所でもあった。


「さてエリクサーについて書かれた本があればいいんだが」




「どうしたもんか」


 ここで利用できる検索機能でのエリクサーについての情報を探したが見つからなかった。


 しかしその代わり不治の病をどうにかする方法はあるかもしれない。


 それはとある世界の娯楽だ。

 意識を飛ばして創られた世界で遊ぶことができるーーフルダイブ技術。


 病を治すとは違うが、次善の策としては悪くないだろう。


(何よりすごく楽しそうだ!)


 後はサンスベリア家に信用を得るだけ。 しかしそれが難題である。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る