けものの名前

大塚

 ここは壺の中だ。

 ここはお屋敷だ。

 ここには子どもしかいない。


 僕たちはしゃべらない。

 僕たちは黙っている。

 僕たちは黙って座っている。

 僕たちはその時がくるのを待っている。


 ここは壺の中だ。

 ここはお屋敷だ。

「助けて!」と叫んだ者から順に連れ出される。

 連れ出されるけれど、それは解放ではない。

 始まった時には百人がいた。

 今は十人。

 九十人がどうなったのかを僕は知らない。


 初めてここに連れて来られた者もいれば、二度目三度目の者もいる。

「今回もあたしが最後まで残るんだから」

 枇杷びわと呼ばれている女の子がそう言っていた。

 僕たちはここで熟れる日を待っている。


 ここは壺の中だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る