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「うぃーっす慶太郎」


「うぃーっすお疲れー」


「今日のこと忘れてないだろうな?」


「当たり前だろ! 楽しみで眠れなかったわ!」


「ホントかよ? ったくよく言うぜ。いつもは来ないくせによ」


「いやいやホントだって。いつもは予定が合わなくて。いやー楽しみ! 誘ってくれてありがとな!」


「それならいいんだけどよ。今日の合コン頼むぜ。七時だから遅れんなよ!」


「おう! 楽しみにしてるぜ!」


 やたらめったらやる気満々の友人に合わせ、俺は意欲的な態度で返す。夏休みを心待ちにする小学生のような、期待と興奮を含んだ表情で俺は笑う。それを受けて友人も笑顔を見せる。


「じゃあまた後でなー」


「じゃあなー」


 大学内の駐輪場で、気さくなやり取りを終え友人と別れる。


 友人は余程楽しみらしく、バイクを法廷速度を破る速さで走らせて行った。


 友人は彼女のいない俺に気を利かせてくれたのか、他大学との合コンに声をかけてくれた。出会いの場を設けてくれた気の利く友人を見送る俺の表情は、柔和に緩んでいた。

 

 抱いた感謝が溢れているかの表情で俺は思う。


 つまんねえことに誘ってんじゃねぇよくそが。


 表情とはミスマッチな感情が俺の胸を占めていた。


 感謝など微塵もない。何故俺が時間を提供してやるのに感謝しなくてはならんのだ。ボランティアする側が何故感謝しなくちゃいけないんだ。


 合コンの何が楽しいのか、俺には到底理解が出来ない。


 わざわざ人数を揃えて、舞台を用意し、つまらない女達とつまらない会話を弾ませる。罰ゲームじゃないか。どこに楽しみを覚えられる。これで楽しいと感じられるなら人生バラ色だ。満員電車の窮屈さも楽しめる計算になる。


 合コンなんて無意義な会だ。時間を消費するだけ。寿命の無駄遣いだ。あいつは楽しそうだったな。命の浪費家かよ。


 面倒極まりなく、純粋に死ねばいいのにとは思うが、俺は決してそれを表には出さない。退屈と思う心情はひた隠し、真逆の感情を全面に出した。


 そう思いながら参加することが矛盾であることなんて理解しきっている。

 

 それなら何故参加を決めたのか。そうボランティアだ。見栄えの為の仕方なしの作業だ。本意などではない。人間関係を円滑に回すためのボランティア。


 本心では行きたくもなんともない。俺は満員電車を楽しめないタイプだ。何一つ愉快でない会に身を投じるマゾヒズムは持ち合わせていない。


 そう思いながらも、俺は参加し、そこでも楽し気に過ごす。楽しくではない。楽しそうに振る舞うだけだ。


 笑顔の仮面を被り、愉快で陽気な姿を披露する。


 冗談を言って場を盛り上げたり、女に優しくしてやったり、男共のサポートをしてやったり、不備のない姿を披露する。


 そうすれば皆俺のことを良い奴だと思い込む。心の底から手放しに、疑うこともなく好意的に思い込む。


 山岸慶太郎は良い奴だ、と。

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