第8話 慰安旅行の話
1970年代。
日本は高度成長期に入っていた……と思われます。
(作者が生まれてない時代なので、詳しくはわからないです)
親父とお袋がまだ結婚したての頃。
多分20代前半だと思われます。
僕にも詳しい話は教えてくれなかったのですが。
きっと父方のおじいちゃんの親戚の話。
親父たちが生まれ育った街は、工場とか炭鉱とか港の仕事。
いわゆる、ブルーカラーの人々で栄えていた街で、うちの親戚はみんなほぼ同じ系列会社で働いていました。
おじいちゃんもそのうちの一人で、ほとんどが大きなグループの傘下にあった子会社ばかり。
まあ血の気が荒い男たちでした。
そして、親父からしたら、叔父にあたる人だと思うのですが。
働いていた会社の慰安旅行によく参加していたそうです。
その旅行先というのが、東か南あたりのアジア圏、某国だと聞きました。
おじさんと会社仲間の人たちは、帰ってくると。
いつもニヤニヤ笑って、同僚のおじいちゃん家にお土産を持ってくるらしいのですが。
それを見た若かりし頃の親父は
「チッ!」
と舌打ちをうって、その集団を睨むらしいのです。
理解できなかった新妻のお袋が、
「どうして怒っているの?」
と尋ねます。
「ありゃ、ただの旅行じゃない。一族の恥だ」
なんて捨て台詞を吐いたりして。
「え? 慰安旅行でしょ? なにが恥ずかしいの?」
親父はため息を吐き、お袋に説明をします。
「はぁ、お前は女だからわからないのだろうけど……ありゃあ、ただの慰安旅行。海外旅行じゃない。買いに行ったんだよ」
察しの悪いお袋は首を傾げます。
「え? 買う?」
「わからん奴だな。女の子とそういうことをするために、比較的安い某国に集団で遊びにいったんだよ……」
「あっ、そういうことね」
ですが、ここでお袋は疑問が残ります。
確かにおじさんは、妻帯者ですが、
「まあ男ならそんな遊びもするのでは?」
と思ったそうで。
実際、僕の親父もきっと経験してるはずです。(多分、豊富)
「そんなに嫌うこと?」
「年齢だよ……日本とは違うだろ」
「あ……」
ここでようやく理解したお袋でした。
甘い石鹸の香りで、ホクホク顔で帰国した集団を見て、お袋は軽蔑したそうです。
後に、僕はこの話を聞いて、よく理解できませんでした。
「その話、なにが悪いの?」
「遊んだりしてたお父さんでも、ドン引きするぐらいの年齢ってこと。わからない?」
中学生ぐらいの時に教えてもらったので、僕は首を傾げていました。
「へ?」
大人になった今ならなんとなくですが、想像できます。
多分、当時の日本の感覚なら。
中学を卒業したばかりの女性がいたとして、15歳、16歳ぐらいで成人感覚で扱われていたと思います。
早い話、嫁いだり、集団で就職したり。
ということは、日本国内でも16歳ぐらいの若者が、そういう街で働いていても不思議じゃない時代……な気がします。
キャバクラやピンクの接待を楽しめた親父ですら、軽蔑する年。
一体いくつなのでしょうか?
その、おじさんという人の好みが、もし16歳よりも、もっともっと下の世代だったら……。
僕はこれ以上の想像を……やめました。
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