第7話 沈黙のドライバーの話


 僕には年の離れたいとこがいます。

 16才差ぐらいでしょうか?

 母方のいとこで、叔母の娘なのですが、年が相当離れているから、姪っ子感覚です。


 叔母は結婚を実母、(僕の祖母)から、かなり反対されていたので、結婚が遅かったらしく。

 でも、今の旦那さんはとても温厚な人で優しく、年をとってもずっとラブラブ。

 僕は夫婦として、とても尊敬しています。


 僕からしたら、叔父さんなのですが、とにかく優しいです。

 いつもニコニコ笑っていて、

「幸太郎くんも酒飲まない?」

 なんて気づかいできる素敵な男性。

 子どもたちもあまり叱らないし、奥さんのことを愛してるし、なんていいお父さんなんだろうと、いつも感じていました。


 ある年のこと、僕はお盆に母と兄と三人で鹿児島に帰省しました。

 その時に、いとこちゃんも来ていて、僕もあまり飲めなかったけど、宴会だったから、コークハイを軽く飲んだりして。

 そして、ちょっとシャイな、いとこちゃんは、この時小学校の3年生ぐらい。


 僕が交際中のカノジョ、(現在の妻)とメール交換していると、叔母さんにイジられて。

 お返しにいとこちゃんに話を振ります。

「あのさ、僕は今カノジョいるんだけど、いとこちゃんはクラスに好きな人いる?」

「い、いないよ……」

 これは怪しいと思い、ちょっといじってみたり。

「ウソぉ~? 僕なんて小1の時には好きな子いたよ?」

「……」

 黙りこんでしまう、いとこちゃん。


 そして、それまでニコニコ笑っていたおじさんも、無表情で酒がストップしてしまいました。


 (あれ? なにかいけないこといったかな?)


 なんて思っていると、母親である叔母さんがフォローに入ります。

「いとこちゃんは、あれよね? パパが世界で一番好きなんだよね?」

「う、うん!」(おじさんをチラ見して)

 その答えを聞いて、またニコニコの仏顔に戻るおじさん。

 酒がグイグイ進む。


 僕はおかしいと思い、再度ツッコミを入れてみました。


「その好きは別の意味でしょ? パパ以外の男の子だよ? いるよね?」

「い、いないよ……」(おじさんを二度見して)

 またしても、表情が固くなるおじさん。


 そしておばさんが、言います。

「違うもんね? そんな子いないよね? いとこちゃんはパパと結婚するんだよね?」

「う、うん!」(おじさんをチラチラ見て)

 ニコニコ笑って頷くおじさん。焼酎が進む進む。


 (えぇ……マジか。この親子)


 僕はそれ以来、彼女に異性の話を振らないようにしました。


 それから時は経ち、彼女が僕よりも背が高くなり。

 厳重な管理下の元、勉学とスポーツに励む女子高生へと成長。

 携帯電話も持たされず。


 そして、帰りはいつも父親であるおじさんが車で迎えにいくのです。


 ここで、勘違いしないで頂きたいのは、おじさんといとこちゃんの親子関係はとても良好です。

 真冬の朝、寒いからと、いとこちゃんがおじさんの部屋に入ってきて。

「パパ寒い~」

「おぉ、いとこちゃん寒いのぉ? パパの布団の中においでぇ~」

 と思春期の父娘とは思えないぐらいの仲良しなんです。


 その日もおじさんは、ニコニコ顔で愛娘を迎えにいきました。

 校門の前で、車を停めて待っていると。


 セーラー服を着た愛娘が、学ラン服の男の子(イケメン)と何やら、仲良く話している。


「!?」


 おじさんはきっと情報を一切遮断されていたのだと思います。

 激しく動揺し、頭がパニックになっちゃったようで。


 おじさんに気がつく、いとこちゃん。


 (あ、見られた)


 車内に乗り込むと。

「た、ただいま。パパ」

「うん。おかえり……」

 案の定、様子がおかしい。

 いつもなら、駄弁りながら、帰路を楽しむというのに。


 沈黙が続く車内。

 いつもより、運転が荒く感じたそうです。


 おじさんはハンドルを強く握りしめ、アクセルを踏み込み、猛スピードで県道を突っ走るのです。

 5分ぐらいの間だったのですが、初めてキレる父親の姿にいとこちゃんは、戦慄を覚えたそうな。


 たまたま、その日は奥さんであるおばさんを近くで拾う予定だったので、車を停めておばさんが車内に入ると、異様な空気に気がつきます。


 沈黙の中、車は猛スピード山道を走り抜ける。

 危険を察知したおばさんが、いとこちゃんに理由を聞くことに。


 先ほどの男の子の名前を聞いて。

「あぁ、あの子ねぇ。いとこちゃんの部活の関係で先輩なんだよね? だから、挨拶程度の関係だったよね?」

「う、うん。そうそう!」

※二人で話を合わせた可能性あり。


 すると、鬼の顔だったおじさんは、いつものニコニコ顔に戻り。

「そうかそうかぁ~ ねぇ、いとこちゃんはまだまだパパと結婚したいのかなぁ?」

「う、うん! 約束だからね」

 車は通常運転となり、車内は一気に平和なムードになったそうで。


 余談として、いとこちゃん曰く。

「生きた心地がしなかった」

「あの日、お母さんが一緒にいなかったらと思うと……」


 成人したいとこちゃんは、元気に働いており、未だに彼氏とか一人も噂が届いてきません。

 (情報規制の可能性あり)


 僕も娘が二人おりますが、その時がくれば、泣きながらお酒を飲んでいると思われます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る