第2話 守護神
「キヒャッ……」
短く声を漏らした小鬼 《ゴブリン》がその場に崩れ落ち、ウィンドウが現れる。
『追加報酬:コイン200』
「よし、こんなものかな」
メインシナリオ#1が始まってから約29分。もうすぐ制限時間の30分に達しようとしている。初めの
「おっ」
これで最後の一匹かと思っていた矢先、自動車の裏から隠れていた
「キイイイイイイイッ!!」
「ははっ! まさか
僕目掛けて勢いよく突っ込んでくる
そのままがら空きの後頭部に鉄パイプを勢いよく振り下ろした。
「キヒッ……」
ベゴッと鈍い音と共に
『追加報酬:コイン200』
左腕につけた時計を確認する。メインストーリーが始まってから29分50秒。こんどこそこれで最後だ。
『メインストーリー#1 “選別”
目標:クリア
報酬:第二フェイズでの生存権 コイン500』
『困難な目標(
追加報酬:コイン500 称号:“命知らず”(一般)』
『本来あり得ない目標(
追加報酬:コイン1000』
よし、かなり幸先のいいスタートだぞ。
僕が
本来このメインストーリー#1“選別”では生き残るために人を二人殺さなくてはならないという胸糞悪いものなのだ。
ただ、僕の場合はこの小説の知識があった。そのため何とか一匹目の
「メインストーリーをクリアし、無事に第二フェイズでの生存権を獲得した皆様、おめでとうございます」
突如目の前に現れた宙に浮かぶピンク色の兎の人形。
小説の中に出てきたソイツの名は――。
「ラビット、だろ?」
「私の名は――おや? 私の名前をご存知の方がいらっしゃるとは。えーと、読売彰様ですか。ほお、
ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべるとラビットは話を戻し、続けた。
「それではメインシナリオ#2に移行する前に脆弱な皆様にチャンスを与えて差し上げようと思います。ご覧になった方もいると思いますが今後皆様には
目の前にウィンドウが現れる。
そこに出ているのは三つの選択肢だ。
『“姿形見えぬ無名なる混沌”
“神託預言せし角笛吹き”
“獄炎を支配する狂帝”』
「今皆さんのウィンドウに出ている選択肢があるかと思います。その選択肢の方々は貴方のことを見守りたい、支援したいと考える神々の皆様です。貴方に対して支援を行ってくださるスポンサーとでも考えると良いでしょう。貴方たちはその中から一柱の守護神を選び、その庇護下に入ることが出来ます、庇護下に入ればその神から支援を受けることが出来るようになります。ああ、もしウィンドウが現れないという方がいらっしゃいましたら残念ですが貴方のことを支援したいと思われる方がいらっしゃらなかったということですので諦めましょう」
一見すればメリットしかないように思えるがここで誰かの庇護下に入ることにはデメリットも存在する。それがその神に対して絶対服従となるということだ。
仮にその神に自殺せよと命ぜられれば絶対にそうしなければならない。まあ実際にそんなことは起きないが。
ただ、ここでの守護神選びはかなり重要な選択となってくる。良い神を選ぶことはその人物の強さにも多分に影響を与えるし、神のデメリットが働いてくるのはかなりメインストーリーが進んでからだ。現時点ではメリットしかない。
そうなれば僕が選ぶべき選択は――。
「ラビット、ちょっといいか?」
「はい? なんでしょうか彰さん」
「神々に対して挨拶をさせてほしい」
「ほお……?」
ラビットの目が細まり、それまでとは雰囲気が変わる。
ピリピリとした殺気がこちらに向けられ、まるで背中にナイフを突きつけられているようだ。その圧迫感に堪え切れず、その場から今すぐにでも逃げ出したくなる気持ちを抑え、僕は何とか踏みとどまった。
「貴方は自分が言っていることの意味を理解していらっしゃるのですか?」
「ああ」
「いいえ理解していないでしょう。神々はあなたとは次元の違う上位存在、あなたのような下等な存在が直接言葉を交わすなど許されるはずが――」
そこで言葉を切り、ラビットは目の前に現れたウィンドウに視線を落として目を見開いた。
「……神々が貴方の言葉を聞いてくださるそうです。命拾いしましたね、もし神々が許していなければ私が貴方を殺してしまっていましたよ、彰さん」
「それは怖いな」
先程までの殺気が嘘のように霧散し、安心から少し強がって見せたが心臓の鼓動は経験したこともない程早鐘を打っていた。
ただ、ここでは絶対にラビットに殺されないという確信があったため何とか意識を保っていられたがそれが無ければあの殺気に当てられた瞬間に僕は気絶してただろう。
「それでは神々に対してチャンネルを繋ぎます」
三つのウィンドウが現れる。その奥には誰かがいるように見えるが、それが誰なのかまでは見えない。
僕はウィンドウに向けて声をあげた。
「初めまして、三柱の神々。僕は読売彰と申します。皆様を呼び出したのはただ挨拶するためではありません、取引をするためです」
僕がそこまで言うと再びラビットから殺気を感じたが僕は無視して続ける。絶対に奴は僕のことを今殺すことは出来ないからだ。
「あなた方は僕のことを支援しようと名乗りをあげてくださいました。僕はその中から一人を選ぶことが出来る。でも、ここで一人を選ぶなんてことはとても僕には出来ません、皆様は全員がとても素晴らしい神だというのにその中から一人しか選ぶことが出来ないだなんて……」
下手な芝居ではあるが僕はそれを続ける。
「そこで提案です。三柱の神様、そしてこの挨拶を聞いて今僕に興味を持った神々の皆様全員、僕と仮契約を行いませんか?」
「彰さん貴方……!」
ラビットが僕に手をあげようとした瞬間その動きが闇の触手によって縛られる。
「これはっ!? 何故そのような者を庇うのですか!!」
「ありがとうございます、名も知らぬ神様」
そう、ラビットは絶対に僕をこの場で殺すことは出来ない。
何故なら神々が僕の事を守ってくれるからだ。
どうして守ってくれるのかって? 理由は簡単。神々は娯楽に飢えている。だから面白そうな提案を持ちかけてくる僕のことが気になって仕方ないからだ。
「仮契約を行ってくださった神々の皆様の中から、次の守護神決めの時に正式に一柱の神様と契約させていただきたく存じます。僕が神々の皆様に提供するのは他の誰にも見せることが出来ないような、退屈を吹き飛ばす娯楽の提供です。既にメインストーリーを見てくださっていた方は分かると思いますが、きっと退屈させないと誓います」
『“姿形見えぬ無名なる混沌”
“神託預言せし角笛吹き”
“獄炎を支配する狂帝”が貴方と仮契約を行うことに同意しました』
『多数の神々が貴方に対して興味を持っています』
『“姿形見えぬ無名なる混沌”が貴方に対して500コインと初心者パックをドネートしました』
「興味を持ってくださった神々の皆様ありがとうございます。わあ! “姿形見えぬ無名なる混沌”様500コインと初心者パックありがとうございます! とても太っ腹な方なんですね、こういう方に守護神になっていただけたらとても嬉しいな~」
少しわざとらしいかもしれないが、こうして煽ってやれば――。
『“神託預言せし角笛吹き”が600コインと成長パック1をドネートしました』
『“獄炎を支配する狂帝”が1000コインと成長パック1と成長パック2をドネートしました』
『他、大勢の神々が貴方に対して合計3000コインをドネートしました』
やっぱりこうなったか! いやあ大儲け大儲け!!
小説の中に登場する神は誰もが同じ神に対して対抗意識を持っており、複数の神から注目される人間に対してはこのようなドネートによるアピール合戦が行われたりしていた。
守護神選びで僕が選択するべきなのは誰を選ぶわけでもなく、大勢の神から利益だけを得る第三の選択だ。
メインストーリーで得たコインと合わせて、序盤に手に入れるコインとは思えない程大量のコインが手に入ったぞ。合計8900コイン、しばらくはコインに困る事はないな。
「……それではチュートリアルの説明に移りたいと思います。皆様が手に入れたコインの使い道ですが――」
「ああ、俺知ってるからそれパスで」
「……かしこまりました。それでは次に特性についてですが――」
「それもパスで。というかチュートリアル全部パスでいいよ」
「……」
チュートリアルで説明されるのはコインの使い道、特性・スキル・称号・ステータスなんかの基礎的な知識についてのものだ。僕はそれらを全て小説の中で得ているので説明を聞く必要はない。
「ステータスウィンドウ」
そう声に出すことでステータスウィンドウが現れる。
名前:読売彰
年齢:17
保有コイン:8900
称号:【勇者】(伝説)【命知らず】(希少)
守護神:【姿形見えぬ無名なる混沌】(仮契約)【神託預言せし角笛吹き】(仮契約)【獄炎を支配する狂帝】(仮契約)
特性:【読者】(一般)【忍耐】(希少)【褪せた世界】(伝説)【???】(???)
スキル:【適応力Lv4】【近接格闘Lv1】【記憶力Lv2】【速読Lv2】
ステータス:【体力Lv5】【筋力Lv3】【敏捷Lv2】【魔力Lv1】
初心者パック・成長パック1・成長パック2適用中
この特性の【???】っていうのが気になるけどそれ以外はかなりいい。
今の段階なら主人公にも勝ってるし、恐らくメインストーリー#1終了時点でならかなり先行してるはずだ。
「それじゃあ折角手に入れたコインを使うとしますか」
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