リメイク版は本家本元からシステム周りまで変更してきて困ります
一応本家本元の『黄昏の刻』のあらすじはこうだった。
辺境の里、
オーソドックスな和風ファンタジーなんだよね。RPGで言うところの、剣士、神官、魔法使いの代わりに、侍、巫女、星詠みが据えられているところがオリジナリティーなんだと思う。
でも私が死ぬ前に読んだクソプロデューサーの記事によると、巫女に選ばれた鈴鹿周りの恋愛パートを大幅に改修したみたいだから、この辺りのRPGパートもそのまんまでいいのかがわからない。
そもそも本来だったら、鈴鹿の親友ポジションの紅葉は、巫女と守護者の旅のサポートとして、旅で立ち寄る先々に物資を送って援助し、道中快適に旅ができるようにしているはずなんだけれど。その途中途中で紅葉と維茂が婚約者同士として、文通しているっていうのが本家だったのが、この辺りどうなってしまっているんだろう。
あのクソプロデューサーがなに考えているのかさっぱりわからない。だってプレイする前に死んじゃったんだもの。
私はしばらく考えてから、
「ねえ、先程の子たちに私は大丈夫と挨拶に行きたいのだけれど、外に出てよろしい?」
そもそも、現状の攻略対象たちの様子も見てみたいし、肝心の主役の鈴鹿が今どうなっているのか見てみたい。
……正直、鈴鹿が維茂のことを好きなら諦めが付くものの、本家だったら彼女には明らかに本命攻略対象がいたはずだから、どうにか維茂との関係に食い込めないかなあと思うんだけれど。
なによりも私の記憶とリメイク版とどれだけ差異があるのか、自分で見てみないことにはどうにもならないんだもの。
私の言葉に、維茂は少しだけ声を強ばらせた。
「お止めください。頭領の娘がすぐに脱走して……先程小童たちから石をぶつけられたのをもうお忘れですか?」
「だから大丈夫ですってば。そこまで心配ならば、あなたもいらっしゃいな」
そうからかい混じりに言ってみると、押し黙られる。
あれ、私早速変なことを言ったか。焦って帳越しに維茂の様子を見てみる。彼の生真面目そうな顔が思案中という装いのあと、やがて溜息をついた。
「……わかりました。お供しましょう」
「ありがとうございます」
私は頷いて、早速外へと出ることになった。
しかし、まあ。和風ファンタジーではあったけれど、外を見てみたら本当に本でしか見たことないような光景が広がっていて、本当に懐かしいような珍しいような不思議な雰囲気だ。
段々畑が広がっていて、そこをせっせと畑仕事をしている。
ときどき牛が「モー」と鳴きながら車を引いているのが目に見え、ゲームではわからなかった部分はこうなっていたんだなあと感心していたら、着物を着た子供たちがこちらに走ってきた。
「もみじさま! ごめんなさい!」
「こら小童共! 紅葉様は病み上がりだ、そんな大声で……」
「維茂止めてください。もう大丈夫ですから、心配かけて申し訳ありません」
「はあい」
子供たちは気を遣ってこちらを伺ってきたけれど、維茂がしっしと追い払ってしまった。
維茂、子供は壊れ物だと思っている節があるから、侍以外の子供は自分から遠ざけてしまうんだけれど、その言動が誤解を招きやすいんだよね……。
私は思わず呆れたように苦言を呈す。
「言い方というものがあるでしょう? 子供たちを怖がらせて」
「……申し訳ありません。ただ、私も頭に血が昇っておりましたから」
「あら、珍しいんですね。あなたがそんなに怒るなんて」
「……当たり前でしょう、紅葉様に石をぶつけられて倒れられた身にもなってください」
ああー、護衛なのに護衛失格だから、余計に語気が荒くなっていたという訳かあ。
この人本当に不器用だなあ。どうしても生前の推しの言動を贔屓目に見てしまうなあと反省しつつ、そういえばと思う。
巫女の鈴鹿がいるのは神社のはずだけれど、神社はどこなんだろう。
「鈴鹿に会いに行こうと思うんですけれど、よろしいでしょうか?」
「巫女にですか? 巫女はおそらくは修行中だとは思いますが、どうして?」
「あら、お友達に会いに行くのに、理由なんてありますの?」
そう聞いて小首を傾げてみた。維茂はそれ以上追求することもなく「こちらへ」と言って案内してくれているところからして、リメイク版でも親友同士なのは変わらないんだろう。
しかし、困ったなあ。私は維茂に案内されながら考え込む。
元々紅葉は鬼無里から一歩も出ずに、鈴鹿や守護者たちの旅路の無事を祈る後方支援担当なんだけれど。フィクションならいざ知らず、現実では遠距離恋愛ってほぼ破局する。この世界にスマホもアプリもないし、鳥による文通しかないんだから、より致命的なんだよな。
そして近距離にいたら、たとえ特に興味のない相手でも、なんらかの情が沸く。鈴鹿が誰を選ぶのかはこの時点ではなんにもわからないけれど、維茂が鈴鹿を好きになる可能性っていうのは、全く捨て切れないんだよな……クソプロデューサーのせいで、紅葉と維茂の距離感が遠ざかっているから、余計に危惧している。
なんとか一緒に旅に着いていく方法ってないのかな。でもゲーム内では、紅葉がそもそも戦えるのか知らないんだよな。
……そもそも、都からの使いが来ることによって、鈴鹿と守護者は旅に出るはずなんだけれど、星詠みの預言でどこまでわかるんだろうな。
そう考え込んでいたところで、だんだんと木目色の鳥居が見えてきた。
階段を昇り、境内を覗くと、白衣に緋袴で、刀を振るっている女の子の姿が見えた。ゲームではドットでしか見られなかった場面だ。彼女が刀を一閃させれば、それはまるで演舞のように煌びやかで、花弁が舞っているようにも見える。
鈴鹿。『黄昏の刻』の主人公にして、皿科が滅亡の危機に瀕したときに、四神と契約の旅に出ないといけない巫女だ。
彼女はこちらに気付くこともなく、真剣に刀を振るっていたら。
パチパチパチと乾いた音が響き、私と維茂は音のほうに振り返った。
大柄で長い髪をひとつにまとめ、狩衣の胸元を着崩している。そして背中には長刀を佩いている。
「観客がたくさんいる中、見事なものじゃないか。なあ?」
そう言って私たちに話を振ってきた。
私たちはびっくりしつつも、思わず頷いた。
「ええ、剣舞。素晴らしいものでしたわ」
「相変わらずだな、鈴鹿」
途端に、ようやく刀を降ろした鈴鹿は、驚いて境内を見回し、私たちを見つけると赤面した。
切り揃えられた御髪が揺れる。彼女は本当に戦うときは凜々しいけれど、普段は素朴な女の子なんだ。
……おのれ、クソプロデューサー。そんな彼女をわざわざ恋愛脳にする必要がどこにあるというのか。忖度か。維茂と鈴鹿のカプが好きな人が大金支払って維茂と紅葉の婚約者設定消すよう迫ったのか。
また沸々と怒りが湧き出そうになったところで、鈴鹿ははにかんで笑った。
「もうすぐ預言が出ると聞いたから、いよいよわたしもお役目を果たさないといけないのかもしれないと思ったら、いてもたってもいられなくって」
ふむ。と私は考え込んだ。
都からの使いが来る前にこの台詞が来るんだから、もしかしてもうすぐ……。
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