第2話 すれ違い

俺はある商業施設のシネコンの入口でぼんやり落ちて来る桜の花びらを眺めている。


「あぁ~ やっぱり待ちぼうけか? 」


俺、樹は後悔なんかしてないがこうなる事を半分覚悟していた。

俺のクラスには亜美と亜希という子が居るのだが・・・

亜美に映画デートのお誘いメールを送ったふりして、わざと亜希に誤送信した。


俺は亜希の事が気になっていたが、なかなか話しをする機会が無くて、何でもいいから話すキッカケが欲しかったんだ。

でも、直接映画デートに誘うのがなんだか恥ずかしい事に思えて来て・・・

こんな回りくどい方法をとってしまった。


それに・・・

亜希と親しい女友達から、亜希が3月いっぱいで転校する話しを聞かされた。

その前になんとかして亜希と親しくなりたかった。


俺はでこんな計画を思いつき、そして実行した。


『あと5分だけ待ったら潔く諦めよう。』

半ば諦めかけた頃、声をかけられた。


「あら、樹くんじゃない。どうしたの?」


「なんだ、亜紀か? 亜美かと思った。」

俺の内心は『来てくれたんだ!』って気持ちだったが、それを押し殺して平静を装う。


「えっ、もしかして亜美と映画デート? 」


「その予定だったんだけど、どうやら待ちぼうけみたいだ! 」


「ふぅ~ん? チケットもう買ってあるの? 」

俺は上映開始時間の過ぎたチケットを亜紀に見せた。


「チケット無駄になっちゃたね。ねぇそれ、嫌じゃなかったら私と一緒に観ない? まだ、今なら入れてもらえるよ! 」


俺が期待した展開通りに話しが進んで行くことに、我ながらビックリしつつも平静を装い続ける。


「えっ、いいの? ほら、時間が無いから早く行こう! 」

俺はすっかり舞い上がってしまって亜紀と手を引いて映画館に入って行く。

亜紀の手は小さくて柔らかだった。


亜紀から映画の事を聞かれる。

この映画は舞台が近隣地区という事で市とシネコンがコラボした今日だけのリバイバル特別上映だ。

亜紀に選んだ理由を聞かれてドキッとした。


「ちょっとね・・・ 二人で観てみたかったんだ。」

正直なところよく考えてなかったが・・・


ホールの扉を開けて二人で並んで指定された席に着いた。

亜紀の事を意識してしまってスクリーンに集中が出来ない。

でも、一度は観た事があるので内容は覚えている。


そのうち彼女は泣き出してしまった。

男の俺はこんな時どうすればいいのだろうか?女性心理なんてなんにも知らない自分が無力に感じた。


「えっ・・・? ここは・・・? 」

彼女のささやく様な声を聞いて・・・


「オッ、思い出したね? この景色、いつまでも忘れるんじゃね~ぞ! 」


『本当は俺の事をいつまでも憶えていて欲しい』そんな気持ちだっが・・・


俺はかっこつけて言ったつもりだったのに彼女をまた泣かしてしまった。

間もなく映画は終わり明るくなったが、彼女の目にはまだ涙の跡がついている。


亜希の手をとって映画館を出たら一口カステラの移動販売車が見えた。

俺は亜希の気を逸らそうと急いで買って、彼女に差し出した。

「一口カステラ買ったからもう泣くな! 」


「ありがとう、半分もらうね。」


二人でベンチに座って一口カステラを並んで食べたが、亜希の事が気になって一口カステラの味なんて分からなかった。


何を言ったら亜希は笑ってくれるだろうか?

「今回の映画では遠距離恋愛ダメだったけど・・・ この監督はこの後トンデモナイ遠距離恋愛を成功させる映画を創って大ヒットとばすよな? だから気にすんな! 」

苦し紛れに言った言葉は亜希に伝わったのだろうか?


「樹くんは優しいね。あらがとう。」

少しだけ亜希はニコッとしてくれた。

俺もニコッと返したが『好きだ』って言葉にならない。

もし今、『好きだ』っていったらどうなるんだろうか?

泣いてる女の子にそんな事言うのは反則なんじゃないのか?

つまらないこだわりのせいで俺は亜希に気持ちを伝えるチャンスを失ってしまった。


「樹くん、今日はあらがとう。またね! 」

亜希の言葉が哀しく俺の頭の中に響いた。



ん?

「またね! 」

って言ってたよな?

まだ、会えるチャンスは有るって事なのか?

それなら今度こそ後悔しない様にハッキリ伝えよう。

後悔しない為に・・・

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