チートジョブ「マナー講師」で魔王軍に糞マナー押し付けて無双します!~勇者様、聖剣を抜くときはおじぎをするように斜めに抜いてください~

ゆずぽんず

第1話 プロローグ

 その日、コーシュは緊張していた。

 彼は「天職の儀」に参加していたのだ。


 偉大な精霊から加護を授かるこの儀式に参加できるのは、人生で一度きり。

 与えられる加護「天職」によって人生は大きく左右すると言われていた。


「おお、なんという神力……!」


 儀式を司る司祭の一人が大きな声を上げる。


「これほどまで高位の精霊が降臨されるとは!」

「素晴らしい!」


 それに他の司祭たちも続く。

 そのざわつき具合から、かなり力のある精霊が現れたことがわかる。


 コーシュの胸は高鳴った。

 顕現する精霊の格によって与えれる " 天職 " もより強力なものになるからだ。


 第二位階の精霊を顕現させた幼馴染は、" 勇者 " の力を得た。

 第三位階の精霊を顕現させた幼馴染は、" 賢者 " の力を得た。

 その二人は現在、国でも有数の実力者として名を馳せている。


 コーシュも本当なら成人の儀式のついでに天職を得るはずだった。

 しかし魔王軍の侵攻によりそれは延期になっていた。


 自分も " 勇者 " や " 賢者 " のようなレアな天職を得られるのではないか。

 そんな期待があふれてくる。

 

 儀式のために準備された大皿には聖水が満ちていた。

 誰も触れていないのに、水面には小さな波紋が揺れている。

 

 そして次の瞬間、波紋は小刻みに何度も波立った。

 まるで強大な存在の出現に怯えているかのように。


「今ここに偉大なる御霊が顕現される! 皆、控えよ!」


 儀式を司る司祭がそう告げた。


 出席者一同が押し黙ったところで、カッと周囲が光る。

 大皿の聖水が撒き散るが、床に落ちることなく宙を漂い、光を乱反射する。

 

 きらきらと光る空間に出現したのは、美しい娘の姿をした精霊だった。


「我が名はマーナ。世界の秩序を司るもの」


 その声に司祭たちが感嘆を漏らす。


「マーナ神!?」

「第一位階の神霊が顕現されるとは……」


 コーシュには精霊の区別はつかない。

 彼の目にはマーナはただの可愛い女の子にしか見えなかった。


 だからこそ司祭たちの口にした第一位階という言葉に驚いた。

 精霊の格は十段階だ。第十位階から第一位階が存在し、数字が低いほど偉い。

 第一位階の精霊はもはや神と同義だ。

 王国の歴史を振り返ってもたった一度しか顕現した記録はないという。


「人の子、コーシュよ」


 最高位の精霊は穏やかな声でコーシュに呼びかける。

 彼は心臓を掴まれたような緊張を感じ、背筋を伸ばした。

 

 第一位階の精霊が与える天職。

 それがあれば魔王軍をも撃破できるかもしれない。

 コーシュは息ができないほどの興奮を覚えていた。


「其方に天職を与える」


 精霊は片手をコーシュに向ける。

 光の粒子が大量に彼に降り注ぐ。


 加護の恵みだ。「天職」を与えられている。

 彼は自分の中に大きな力が芽生えているのを理解した。


「此度授けた天職は " マナー講師 " である。この力をもって世界に秩序をもたらすがよい」


 質問をする間もなく、第一位階の精霊マーナは光の中に消えていった。

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