第30話 陸上自衛隊から

陸上自衛隊から


岩田陸尉の後ろを付いて陸上自衛隊作戦本部のある建物を後にする外にはすでに来たときと同じ軽装甲車と見られる車が待機しており陸尉が運転している下士官に一言話すと俺は乗るように促された。


「じゃあ送って行くから乗って」

「はい」


俺は車の後部座席に乗り込むと直ぐ横に岩田陸尉も乗り込む、シートベルトをつけるように促されてしっかりとベルトを固定すると、車は陸上自衛隊本部ビルの敷地から国道へと向かっていった。


「それで宗助君聞きたい事があるんだけど」

「何でしょう」

「その絶対記憶の事なんだけど、本当?」

「はい?」


さすがにエリート陸尉には少し不自然に見えたのか、少し怪しまれているらしい。


「先ほど君のうちの残骸から壊れたパソコンが見つかってね、中のハードは何とか復元が出来たらしい」

「…」

「ハードディスクの中にはその時間帯に使用した痕跡は無かったと言われたんだけどね」

「ごめんなさい実はスマホなんです」

「スマホ!」

「少しいじってあるんですよ、でも失敗すると契約止められちゃうので」


手に持っているスマホに高機能通信システムとハッキング機能を即追加する為AIリリーに連絡する、急遽リリーの機能を利用してこの場面を乗り切らなくては陸尉からの信用をなくしてしまう。

そうなれば彼らに話す俺の言葉から信憑性が薄れてしまうだろう。


【リリー聞こえるか?】

【はい宗助様良く聞こえます】

【問題発生だ、自衛官に俺の素性がばれそうだ、一応スマホでハッキングしたと言い訳したが、スマホにそれらしきアプリを構築してハッキングしたように偽装できるか?】

【はいやってみます、インベーダーが使っていた通進帯及びその電波による外部入力システムへのコード検索アプリを製作50%70%3・2・1作成完了、宗助様のスマホにアプリを転送します3・2・1転送完了】


「それを見せてくれたり出来ないかな?」

「あ え~と」

「もしそのアプリが本当なら我々が向こうに行ってハッキングする時も必要なんじゃないかな」

「確かにそうですね、分かりました」


アプリの転送がギリギリ間に合い、俺は陸尉にスマホを提示する。


「これが電波帯ですね、それとこの部分がハッキングのパスコード検索」

「すごいなこれ自分で作ったのか?」

「はい、見よう見まねで少しCGIやC言語は勉強したので」


実はそんな勉強などしたことなど無いのだが、自分で作った事にしないと又嘘がばれてしまう。

リリーが作成したアプリは良くできていた、表示画像も言葉も数カ国語選択できて電波帯は0,001Hzから100GHzまで使用可能、さらにパスワード検索機能にはアウトキャンセル機能まで付いていた。


(アウトキャンセル=失敗しても無かったことに出来る)


「これ勿論悪用はしていないよね?」

「悪用していたら直ぐに捕まりますよ、というより試作ですよ一応、試したのも今回が初めてです」

「これはう~む」

「どうかしましたか」

「このアプリ販売する予定は?」

「は?!」


よく考えなくても分かるもしこんなソフトがあったら、金融機関はもとよりデジタル系のパスは開き放題、犯罪者がのどから手が出るほど欲しがるアプリとなるのは確か。


「売らないですよ、まずいでしょ犯罪に使われたら」

「そうか君はちゃんとしてるな、それならばいい、だが自衛隊がもし期限内に座標空間転移装置を手にいれ異星人の星へ行けたなら当然必要になってくる、その時はそのアプリが必要だ」

「はいその時はアプリを差し上げますよ」

「いやその対価はちゃんと支払う事にする、これは仕事として成り立つ・だから外注としてアプリの製作を頼んだ形に経理部にもあげておくよ」

「いいんですか?」

「そうしないと記録に残らない、記録に残さないとどこかで流用するものが現われないとも限らないからね」


さすがに国の機関だ、まあそうでなくてもちゃんとした仕事には対価が支払われるのが当たり前なのだが。

アプリの使用許可として書類を作成し、期間や価格そして使用目的を明記しておく事で犯罪などに使用された場合の責任の所在を明らかにしておく、損害賠償などが発生した時に何処まで責任を負うのかを明記しておくのは、個人の財産を守るためにも当然のことだ。

岩田陸尉はそう言うことまで考えていてくれた。


「有難うございます」

「お礼はこの問題を解決してからの方がいい、我々は今回の事を地球規模で考えている、もし君のデータで座標転移装置が作れたとしても日本単独でミッションを遂行するには問題も多いしリスクもかなりある、君に語るにはまだ情報もしっかりしてないので申し訳ないが、そこは察してくれるとありがたいが…」

「大丈夫ですちゃんと理解しています」

「有難うそれじゃ頼んだよ」


来た道をそのまま自衛隊の軽装甲車で新しく家族で住む事になったマンションへと安全なルートを走っていく。

道のところどころで破壊された電信柱や家屋が目の前を通り過ぎる、道は何とか走れるように残骸は片付けられてはいるのだが。


「…」


陸尉の顔には道路の両脇に残る残骸を見て悔しさがにじみ出ているような気がした、程なくして車はマンション前に到着し、陸尉と握手をして別れた。


「それじゃデータのほう頼んだよ」

「はい明日には出来ると思いますので」

「分かった又明日連絡してから受け取りに来るよ」


俺をマンションの入り口前で降ろすと、軽装甲車独特の重いエンジン音を轟かせながら走り去っていった。


(さて問題はこれからだな)

【宗助様お帰りなさいませ】

【リリー只今】

【データのコピーですが何処までお渡しになりますか?】

【一応座標転移装置のデータは全部だな、だけど俺のスキルに関してのデータは極力避けないと】

【そうですね、ああそれからご報告です愛菜様が私をお人形として愛でて下さっています、それからお父様も、映像で確認しますか?】

【あ~それは良いや、なんだかいけないものを見て仕舞いそうな気がするから】

【かしこまりました】


マンションの入り口からカメラつきのインターホンで母に連絡、まあ脳内通信でも良いのだが。

誰かに見られるとまずい気がするので一応音声で伝える事に。


「母さん帰ってきたよ」

「今開けるわ」


程なくして玄関の自動ドアが開きマンションのエントランスに入ると花の香りが香ってくる。


【この香りはローズとレモンそこにシークワーサーが加えてあるようです、この香りは週ごとに変更されるようです】

【そうなんだ】


脳内でリリーと会話しながらエレベーターで最上階へ。


「ただいま!」

「おにいお帰り」

「宗助どうだった!」

「特に何も無いよ、あ そうだこれ貰っちゃった」


小脇に抱えているのは自衛隊謹製のモバイルPC、それを見て父は驚きを隠せない。


「な マジか幻の軍用ノートPCじゃないか!」

「ま 幻って…」

「もう何年も前に軍用のPCがあるのは噂で知っていたんだが、まさか息子が手に入れるとは」

「あげないよ」


父の目は少年のようにキラキラと輝き自衛隊から戴いたノートPCへと注がれる。

まあ少しは触らせても良いと思うが、さすが機械系オタクだ、ちなみに父は自作のPCを作ったりもする。

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