第9話 実験と検証

実験と検証


3日後、この日は日曜日 朝起きると俺は朝食を摂り父と母に公園へ行くと言って外に出た。

父は今日会社主催の展示会フォーラムがあるとかでこれから出かけるという。

妹はまだ夢の中だが、彼女の事だ仲間と遊びに行く約束をしているらしい。

身体は昨日よりスムーズに動くようになり、道路をゆっくりと歩いている。


「だいぶ慣れてきましたね」

「あ リリーおはよう」

「おはようございます」


リリーと話すときにはどうしても音声まで出てしまうため、ブルトゥースタイプのイヤホンをわざと装着し、スマホを片手で持つようにしている。

イヤホンを使い誰かと話している風を装う為だが、こういう人はかなり居る為違和感は殆ど無い。


「今日はどちらへ?」

「まずは近くの公園へ行って少し能力を使ってみようと思うんだ」

「分かりました、お供します」


お供しますと言う言葉はたぶん彼女が俺の近くを一緒に歩いていると言う感覚を俺が脳内で想像している為に、彼女がそれを受け取って出てきた言葉だと思う。

道路を数分歩いて行くとさほど大きくは無いが少しの遊具と樹木がそこそこ植えられた公園が目の前に現われた。


「ここですか?」

「そうだよ、もっと大きな公園もあるけどそこは人が多いし、逆に小さい公園の方が人が少ないんだよ」


日本は公園の数がやたら多い、土地が少ないと言っている割には郊外の住宅地には200メートル置きに公園を見かける。

まあそうしないと直ぐ開発して家ばかり建ててしまうから、この状況は思ったより悪くは無いけどね。

公園に着くと一応準備体操から始めた。


「ん~は~~」


背伸びをして、手を上に上げ深呼吸を数回、足を伸ばし次に屈伸。

そのたびにバランスを崩し倒れそうになりながら即、バランスに対する足の動きと体重そして重心の位置をバランスモジュール内で調整して行く。


「ああここでそう足をづらす様に太ももを外へそれが出来ないときは足首を、それでも足りない時は腕を出す、そうそう」

「それをパターン化してインプット」

「了解しました」

「それじゃ次に走ってみよう、この公園は小さいから10メートルダッシュからかな、まずは時速15kまで」


タッ!

「よし、今度は時速20k」

タッ!

「次は30k」

バッ!

「次は40k」

バシュ!

「うわっ!」


さすがに40kダッシュになると足が地面に埋まりだす。

その為運動靴にかなりの衝撃が加わり一瞬で変形する。


「ん~やはり30kまでが安心して出せるパワー限界かな」


たぶんそれ以上のパワーを足に加えると靴は破れてしまい一回で使い物にならないゴミに変化するだろう。


「リリー、靴をロボ化する事はできる?」

「出来ますよ」

「できるんだ、じゃあやって見よう、スキルロボ化対象は両足の靴」


【靴をロボ化します、耐久度が上がります強化度を設定できます】

「了解じゃあ10段階にして現在は6に設定」

【強化の内容はいかがいたしますか?】

「1が強化前の耐久度にして、5で時速80kに耐えられるように、だから10で200kかな、この数値は後で使ってみて微調整しよう」

【了解しました】


俺の体重は現在65k身長175センチ、まだ少し伸びるはずだが、もしかしたらこの設定はロボ化スキルで変えられるはず、だが今の所は変更するつもりはない。

体重65k足にかかる重さは走る時スピードによりその重さは変わってくるが、10k程度でも最初の1歩目は1.5倍相当の90kはある、これは片足にかかる体重。

10k単位で大体コンマ5倍なので時速100k出す為片足にかかる最初の1歩の足に掛かる重量は300kを越える予想、初速100kならば片足300kgを超える衝撃で、たぶんアスファルトでもくっきり足の跡が残ると思う、そのぐらいの衝撃が足元にかかるわけだ。

しかもその一歩一歩から繰り出される前方に向けたエネルギーは少し重心が変わるだけでまっ直ぐには進まなくなる、人間の足は2本ありそれを交互に動かす事で進むわけだ、体の中心バランスも人それぞれ、自分自身もたぶん左右のバランスは同じではない。

かなり高速な解析調整運動モジュールを作成する必要がある。


【運動モジュールを走行時に設定します、同時に靴と連動】


靴の設定は強度を6にしても履き心地は変わらず、要は破れにくく変質しにくくなるだけだ。


「これで走る為の大まかな設定は完了だな、今度は腕のほうかな」


近くを見るとそこには低いながらも鉄棒が見えた、一番高い位置になる鉄棒を掴むと一度ぶら下がってみる。

子どもの遊具設定なのか鉄棒の高さはかなり低い、一番高くて1メートル50センチぐらい。

手には先日作成した握力操作の設定で掴んでも握りつぶさないように設定してあるので、迷わず鉄棒を握り締める、握力は自分の体重と同じ重さに設定。

そして掴んでぶら下がり懸垂をしてみる、1回2回3回…

鉄棒の位置が低い為足は折り曲げたままだが、何回やっても疲れないし筋肉が痛くなることも無かった。


「こりゃいい」

「体操の選手にもなれますね」

「いやそれはやめておくよ、この体で有名になるのはあまり良いこととは思えない」

「宗助様の未来は明るいです」

「応援ありがとう」


結局200回を過ぎたあたりで終ることにした、これもスピードを上げようとすれば今はいくらでもあげられる、但しそうすると上に纏ったトレーナー(上着)が擦れて摩擦熱で発火する可能性がある。


「これ服にもロボ化の適用はできるんだよね」

「はい可能です」


まあ上着も、着るもの全体は時速100kを越えるような使い方をしない限り燃えるとか言うことは無いはず。

スーパーマンのような一瞬で数百キロと言う高速運動をしない限りはそこにロボ化を設定する必要は無いだろう。


「リリー、このロボ化は一度設定すると永遠に継続するのか?」

「はいその通りです」

「すごいな、服は1着で済むわけだよね」

「その通りです」

「解除は出来ないの?」

「可能です、そのときはスキルロボ化解除と叫んでください、その状況のままで解除されます」


そう考えてみると、少し恐ろしい思いもよぎってくる。


「もしかして俺は歳を取らないって事?」

「スキルロボ化を適用している限り外見の年齢は変わりません」

「そうなんだ…」


そうなると歳を取らない子どもに親はどう思うだろう、まあこれは10年以上経たないと怪しまれることは無いと思うけど。

何か、恐ろしいスキルを手に入れてしまった感もぬぐえない、だがこのスキルが無ければ死んでいたのだから、いまさらスキルが無い状態は考えられないし。


「何とか有意義に間違いの無いように使うしかないな」

「はいその考えに賛同します」


そこに何故か妹である愛菜が駆け寄ってくる。


「お兄ちゃんこんなとこにいたんだ」

「なんだ?どうした今日は遊びに行くんじゃなかったのか?」


15歳になる妹は現在習い事もしているがそれはウィークデーに済ませているようだ、だから本日は友達とのウィンドウショッピングに行くと言っていたはずだが。

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