大ルアジュカ山脈編ー12
俺はドワ娘が寝静まったのを確認すると消えかかった焚火に薪をくべ腰を下ろした。
薪の中にまだ水分が残っていのかパチパチと激しく音が鳴り、時折手を叩いた様な大きな破裂音が辺りに響き渡り、無数の火の粉が空へと舞い散っていく。
熱々に注がれたお茶を片手に俺は一つの懸案事項と向き合っていた。
――アイテムボックス――
そう、アザーワールド・オンライン内ではどのプレーヤーも使用することが出来たアイテム収納システムである。
大概のアイテムは収納可能であり、魔法の強欲ボックスというクエストを受けることで収納上限を増やすことが出来た。
現在俺の収納可能アイテム数は上限の150種類。
その8割は既にアイテムで埋まっている状態だ。
ゲーム内ではアイテムごとに収納できる上限が設定されていて、武器なら最大12個、薬草なら99個までと決まっていた。
ゲーム内においてこのアイテムボックスはクエストや戦闘に必要なアイテム以外収納することは出来ない。
当然と言えば当然なのだが、例えばそう、今足元に転がっている石ころなどは対象外であった。
……さて、どうなる。
手に取った石ころを握りしめ一呼吸すると、システム画面を開き収納ボタンをタッチしてみた。
――神の御業か悪魔の所業か。
中世の人々がこの現象を目にしたならば、一体なんと表現したのだろうか。
そこにあったはずの小石はまるで手品か何かの様に忽然と姿を消してしまった。
念の為アイテムボックスを開き、画面を確認するとちゃんと小石が一つ収納されている。
よし、まずは成功だな。
……なら、こいつはどうなるかな。
俺は先ほどより少し小さめの尖った石を拾い上げ、もう一度同じ作業を行う。
ボックスを再び確認してみると小石の数が二つになっていた。
詳細を画面を開くとそこには形、サイズの違う小石が二つ表示されていた。
なるほど。全く同じ形、大きさでなくても同じアイテムとして認識され収納されるわけか。となるとどこからが小石でどこからが普通サイズの石と判定されるのだろうか。
まぁ、その辺については追々でいいか。
続いては今この手に持っているお茶の入ったカップと空のカップを、更に今目の前で燃えている火のついた薪を同様に収納してみる。
まずカップの方だが、ボックス内ではカップが二つ収納されていることになっている。
詳細を確認すると一つは空のカップ、もう一つは熱々のお茶が入ったカップと説明書きがなされていた。
つまり何か物が入っていても一応は同じアイテムとして判断されているわけか。
薪に関しても同様にアイテム欄には薪として表示され、詳細欄に火のついた薪と説明がされていた。
あと確認しておきたいのは、そうだな……、アレも一応確認しておくべきだろう。
俺はドワ娘を起こさぬようそっと立ち上がると、ロープにつながれ立ったまま寝ている馬の元へと静かに近づいた。
足音を消し近づいたつもりなのだが、野生の本能なのか人の気配を察知すると馬はぱっと目を開きすぐさま警戒態勢をとる。
「起こして悪かったな」
怯えぬよう声を掛けながら正面に回り込むと、近づいてきたのが俺だと分かったようで首を上げ一度軽く鼻息を立てると、馬は再びゆっくり目を閉じた。
小石、薪は問題なく成功した。
なら、こいつはどうだろうか。
俺は馬の胴体に手を当て優しく撫でてやりながらボックスの収納ボタンをタップしてみた。
――結果から言いうと、馬の収納には失敗した。
何が原因なのか現状不明である。生物がダメなのか、はたまた大きさなのか、重さなのか、それともそれら全部なのか。
今一つ収納できるものの基準がわからない。
それから荷馬車でも実験してみたが、これも収納することは出来なかった。
どうやら大きによっては収納することが出来ないらしい。
試しに馬車の部品の一部を外し試してみたが、これは成功した。
非常に便利な機能ではあるが、やはりと言うべきかある程度制限、制約はあるようだ。
まっ、当然と言えば当然だろう。
大体調べたいことはこんなものか。
……いや、最後にもう一つ確認したいことがあった。
俺は先ほど収納した薪とお茶入りのカップと取り出すと、薪を火にくべ椅子に腰を下ろし湯気の立つお茶をゆっくり飲み干した。
ふぅ。
収納してから数十分は経過していたが、お茶は冷めることなく温かいままだった。薪は火がついてはいたが燃え進むことなく収納時の状態を維持していた。
つまりアイテムボックス内に収納できれば、時間による経年劣化や状態変化は起こらず、収納時の状態を維持できるわけだ。
まだまだ不明な点は多いが、多少なりともこいつの性能は把握できた。
これをうまく活用できれば、領地開拓をもっと効率よく進めることが出来るかもしれない。
まぁ、あとは実際に使用して調べていくしかないな。
先程くべた薪はあっという間に炎に吞み込まれ、見る見るうちに黒い灰となり崩れ去っていく。
俺は飲み終わったグラスをボックスにしまい、背もたれに寄りかかるようにして大きく背伸びをすると夜空の天辺に居座る下弦の月がこちらを見下ろしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます