ドワーフ王国のドワ娘姫ー9






「――なんだ、お前たちは?」






馬の足音に気づいた一人のドワーフ兵がジョッキ片手に城壁塔からぬっと顔を覗かせた。




「俺達、世界各地を旅している冒険者なんだ。ガラドグランへの入場の許可をもらいたい」






「お前たち二人だけか?」




「あぁ、そうだ」






巨大な門の前に降り立った俺とノジカをドワーフは顎に手を当てながら訝しげな目で観察している。




「許可証はもっているのか?」




「許可証? 入るのに許可証がいるのか?」




「当たり前だ。許可証がない者は何人たりともこの門を通してやるわけにはいかんぞ」






 許可証か。




やはりそう簡単には入れてもらえないよな。








あの二人何も言ってなかったが、まっドワーフ族のお姫様とその従者が入国許可証なんて持っているはずないか。








「なぁ、どうやったらその許可証とやらは手に入るんだ?」






「さぁな。下っ端のオレにはわからん。ともかく許可証がないのなら諦めてとっとと帰るんだな」






「そこを何とかならないか?」






「ならん、ならんっ! 早く帰れっ!」






ドワーフは持っていたジョッキをグイっと飲み干すと、俺たちの相手をするのが面倒くさくなったのか、手をひらひらと振って追い払う仕草をしてみせた。






「ねぇ、どうするの?」




「どうするって言われてもな」




「暗くなるまで一旦待って、こっそり忍び込む?」




「ここをか?」






俺とノジカは後ろへ反り返る様な格好で侵入者を防ぐ岩壁を見上げた。






天高くそびえ立つ鋼鉄の城門、左右には王国を取り囲むように連なる天然の城壁。




もしここを自力で超えられるとしたら、それは空を自由に駆け回る事の出来る者くらいだろう。






「……どう考えても無理だろ」




「だよね。ボクもそう思う」






ドワ娘も簡単に”炎の金づち亭”に合流だなんて言ってくれたもんだよな。






さて、どうしたもんかな。




 「ん?」




  姿は見えないが先ほどから複数の視線を感じる。






 「どうしたの?」






「いや、何でもない。それよりノジカ。一旦ここを離れよう」






「何かいいアイデアでも浮かんだの?」






「いや、全然。けど、ここにいても何の進展もしなさそうだ」






 「そうだね」 






これ以上長居していると不必要に警戒されてしまいそうだ。




取り敢えず立ち去ったフリをしておいたほうがいいだろう。










俺とノジカは馬車に乗り込むとすごすごと来た道を引き返し、曲がり道を過ぎこちらの姿が見えなくなったあたりで馬車を停車させた。






あれはまさに鉄壁の守りだな。






少し離れた位置から眺め見ると余計に正面の門から入ること以外の困難さを実感させられる。






「ねぇ、どうするの?」






「許可証を手に入れる必要があるだろうな」






「やっぱり、それしかないか。どうにかしてフレデリカ達が中から開けてくれないかな?」






「それはさすがに無理だろ。あの二人は表立って行動できないし、それに俺たちにはあいつらとの連絡手段がない」






「むむむむむぅ」






ノジカは眉間にしわを寄せて、困ったように唸っている。






許可証か……。




許可証があるってことは、何かしらの条件をクリアした者には発行されているわけだよな。




その条件さえわかればどうにかできるかもしれないが、あのドワーフの門番、取りつく島もなかったからな。






どうにかして情報を手に入れたいが……。




さて、いよいよ手詰まり感が出て来たな。






「――ねぇ、ラック」




俺が頭を悩ませていると、ノジカが睨めつける様な目でガラドグランとは反対の方角を見やっていた。




「どうした?」






「馬車が近づいてくるよ」






本当に彼女の耳は優秀だ。




ノジカの猫耳は徐々に近づいてくるその音を聞き逃さまいとピンと立っている。






「馬車は一台だけか?」






「ううん。三,四台はいると思う。ねぇ、どうする? どこかに隠れる?」






三、四台か。




ひょっとするともしかして……。






「いや、多分大丈夫だろう。それに俺たちだけ隠れて馬車を置いていくわけにはいかないしな。けど一応、警戒だけはしておいてくれよ」






「うん、わかったよ」






しばらくするとようやく俺にも自分の耳で馬車の音が確認できたが、その頃にはその姿が目で確認できる位置にまであった。






ノジカの言う通り複数の馬車が隊列を成してこちらに近づいてくる。






どうやら向こうも俺たちの存在に気付いたようで、先頭の馬車が徐々にその速度を緩め、横づけするように停車した。






腰にぶら下がった剣に手をかけ警戒していると、目の前に止まった一台の馬車から見知った恰幅の良い男が降りてきた。




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