キミエさんの思い出話

樹(いつき)@作品使用時の作者名明記必須

キミエさんの思い出話

私が若かった頃の話が聞きたいの?そうねぇ。それじゃあ、爺ちゃんと出会った頃の話でもしようかしらねぇ。


私が女学校に通ってた頃はね、学校が終わってからと日曜日に、おじ夫婦が始めた喫茶店に手伝いに行っていたの。その当時、うちはそれほど裕福でもなかったから、少しでも家計の足しになれば、と思ってね。


その喫茶店に、背が高くて燕尾服を着た男性が入ってきたの。それが爺ちゃんとの最初の出会いよ。

その頃の爺ちゃんは背筋がピンとしていて、燕尾服がとっても似合う男前でね。映画俳優みたいだったのよ?

私がいない時にも爺ちゃんは何度もお店に来るようになって、おじ夫婦とも話す機会が増えて、爺ちゃんの事色々教えてもらえたそうなの。


爺ちゃんは、喫茶店の近くのお屋敷で執事をやっていて、そのお屋敷の旦那様に淹れるコーヒーの香りを初めて嗅いだ瞬間、自分でも飲んでみたいって思ったんだって。それでちょうど近くに喫茶店があったからコーヒーを初めて飲んでみたら、苦味と酸味の新鮮な味わいが気に入って、休憩時間になるとコーヒーを飲みに通ってくれるようになったそうなの。


それからしばらくして爺ちゃんが「お屋敷の坊っちゃんの家庭教師を探してるんだけど、キミエさんやってくれないかな?」ってとっても真剣に頼んで来たの。喫茶店の手伝いをする前、家庭教師をやっていた事を爺ちゃんに話してたのを覚えてたみたいでね。

もちろん私一人じゃ決められない事だし、おじ夫婦と両親に話してみたら喜んで賛成してくれたのよ。


その後はお屋敷で家庭教師をする事になったのだけど、最初は格式高いお宅だし緊張していたの。でも爺ちゃんがいてくれるっていうのもあるし、爺ちゃんって本当に紳士的で優しかったのよ。あんなに緊張してたはずなのに、家庭教師に行く度に爺ちゃんに会えると思うだけで楽しみになっていったの。そう、日に日に爺ちゃんの事が好きになっていったのよねぇ。


○○(男の孫の名前)は今好きな人はいないの?…そう。気になる人はいるのね。それは良かった。心が満たされて幸せな気持ちになれるから、その人の事大事になさいね。

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