第23話

 私は今年で二十歳になる大学生なのですが、去年の夏休みに、友達と一緒にとある心霊スポットへ行ってきました。そこは、山奥にある小さな村で、昔から村の人たちに恐れられていた場所でした。

私たちはそこで肝試しをしようということになったのです。場所は廃病院の中。私たちが中に入ると、そこには誰もいませんでした。

「どうせ噂なんてただの噂だよ」

私は余裕たっぷりに笑っていましたが、本当は怖くてたまりませんでした。

「大丈夫だって! そんなにビクビクしないでも!」

「でもさぁ……」

「もう……、しょうがないなぁ……」

「えっ……?」

「じゃあ俺が手を繋いであげるから」

「あ……、うん……」

そうして私たちは、二人で一緒に院内を歩き回ることになってしまったのです。

「ねぇ……。何か聞こえない?」

「えっ? 何かって?」

「うーん……。よくわかんないけど……」

その時でした。突然どこからか、シューッという空気が漏れるような音が聞こえてきたんです。

「何の音だろう?」

「わからん……」

その音は次第に大きくなっていきました。

「ねえ……。何か嫌な予感がするんだけど……」

「ああ……」

私と彼は、慌てて病室を飛び出しました。廊下に出ると、さらに大きな音が聞こえてきました。

「何だよこいつら!?」

「こっち来るなよ!!」

「ぎゃあっ!!!」

「きゃあああっ!! 助けてぇ!!」

「逃げろぉおおおっ!!」

私は思わず悲鳴を上げてしまいました。彼らはまるでゾンビのような姿をしていたのです。顔は青白く、体は腐っていて、手足には骨のようなものが見えていました。

「早くここから出よう!!」「うん!!」

私たちは出口に向かって必死に走りました。しかし、そこにはたくさんの人がいて、なかなか通り抜けられません。それでも何とか前に進んで行くと、目の前に壁が立ちはだかりました。

「行き止まりじゃん!」

「どけよお前ら!!」

私たちは必死になってそこを通り抜ける方法を考えました。でもいくら考えても、何も思い浮かびません。とうとうその人たちは、こちら側にまで迫って来ました。

「ちくしょーっ!! こうなったら……」

「おい、まさか……」

「こうなりゃもうヤケクソだぜ!!」

「待ってよ! やめてよっ!!」

私と彼は、その人を押しのけて先に進みました。そしてそのまま階段を駆け上がりました。

「ハァッ、ハアッ、ここまでくればもう安心……」

ところが、その瞬間、後ろで物凄い爆発が起こりました。私と彼は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてしまいました。見ると、さっきの人の姿はなく、そこには一人の女が立っていました。

「やった……、ついに成功したんだ……」

その女の人は、全身血まみれで、手に大きな包丁を持っていました。私は恐ろしくなって、その場から動けなくなってしまいました。すると彼女はゆっくりと近づいて来て、私を見下ろしながら言いました。

「これで……、やっと殺せる……」

「ひっ……!」私は恐怖で声も出ませんでした。

「ずっとこの日を待ってたんだ……、あんたが死ぬ日をね……」

その言葉を聞いた途端、私はようやく我に返りました。そして、持っていた鞄を思い切り彼女の顔面めがけて投げつけました。すると彼女がひるんでいる隙に、私は一目散に逃げました。

なんとか外に出られたものの、もう体力の限界です。私はその場に倒れ込んでしまいました。しばらくそうしていると、ふと誰かの足が目に入りました。見上げると、そこにはさっきの女がいました。

「よくもやってくれたわね……、覚悟しなさい……」

私は殺されると思いました。でも、その時です。突然背後から男の声がしました。

「やめるんだ!!」

その男は警察官でした。

「何なのあなたたち……? 邪魔しないでくれる……?」

「やめないなら公務執行妨害で逮捕するぞ……」

「そんな……、困るわ……、せっかく殺したかった人を……」

「君はいったい何を言ってるんだ!?」

「あの子は私の夫を殺したの……。だから私が復讐してあげようとしただけなのに……」

「君、いったいどういうことだ?」

「あの子が悪いのよ……。私のこと裏切って、他の女と逃げたりして……。私はあの子に殺されそうになったのよ……」

「あの子が君のことをそんな風に思っていたとは知らなかった……。すまない……。許してくれ……。本当にすまなかった……」

警官は泣き崩れました。

「いいえ、あの子はきっと反省なんかしてないわ。私がこんな目に遭わされてることを知らないもの」

「それは違う。君の夫はそんなことをするような人間じゃない」

「そんなはずない!! だってあいつは、いつも私のことバカにしてたもん!!」

「いい加減にしろ!!」

私は思わず叫んでいました。

「あなただって、あなたの奥さんが浮気したらどう思う? 相手の男が憎いでしょ?」

「当たり前じゃないか!! でもそれとこれとは別問題だ!!」

「どうして……? 同じことでしょう……?」

「全然違う!! もし君が奥さんの気持ちをわかった上で、その男のことも悪く言うというのであれば、僕は何も言わない。でも、今の言葉だけは絶対に認めるわけにはいかない!!」

「どうして……? 私の方が愛してるのよ……。私の方こそ、あいつを恨んでもいいでしょう?」

「確かにそうだ……。でも、それだけじゃダメなんだ……。憎しみで人を殺すことは、もっといけないんだよ……」

「じゃあ、私にはもう何もできないっていうの!?」

「ああ……。今は辛いかもしれないけど、これからの人生で、そのことをしっかり考えて欲しい……。それが無理だというのなら、せめて罪を償ってくれ……。頼む……」

「……」

彼女は黙って去っていきました。

それから数日後、私は彼のお墓参りに行きました。そこで私は彼に謝ったのです。

「ごめんね……。あんな酷いこと言って……」

「ううん、気にすることなんてないさ……」

「えっ……?」

「俺はちゃんとわかってるからさ……」

「何のこと……?」

「ほら、俺が言っただろ?

『どんなに辛くても、生きている限り希望はある』って……」

「うん……」

「あれは嘘じゃない。たとえ絶望的な状況でも、最後まで生き抜いていれば、必ず光は見える。だから諦めずに生きて欲しいんだ。そしていつか、自分の人生が幸せだったって思える日が来るまで……」

「……」

「それにな、人間は死んだら終わりだけど、思い出は永遠に残るんだ。記憶の中の俺たちが消えない限り、本当の意味で死ぬことはない。だから大丈夫だよ。安心して、前を向いて歩いていこうぜ!」

「ありがとう……」

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ホラーのまとめ ニート @pointinline

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