第19話

 これは私が小学校低学年の頃の話です。私はよく友達の家に行って遊んでいました。その子は私の家の近所に住んでいたので、しょっちゅう遊びに来ていたんです。

そしてある時、私はその男の子の家に泊まったことがありました。その子は一人で暮らしている少年で、両親は離婚していて母親に引き取られているということでした。だから家にはほとんど帰ってこないのです。

その夜、私たちは二人でテレビゲームをして過ごしていました。ところが夜中の十二時を過ぎた頃、急に眠気が襲ってきたのです。

「ねむい……」

私はあくびをしながら言いました。

「ぼくも……」

その子は少し疲れた顔をしています。

「もう寝よっか?」

私が尋ねると、その子は大きくうなずきました。

「うん。でもその前にトイレ行きたい」

私たち二人は部屋を出て廊下を歩きました。そして階段の前を通りかかったときです。

「ねえ、なんか変じゃない?」

私は突然そんなことを言い出しました。

「何が?」

その子はきょとんとした表情で私を見つめています。

「だってさっきから足音がしないもん」

「そういえばそうだね」

そう答えて彼は足をとめました。

「ちょっと見てみよう」

そう言って私の手を引っ張って、二階に続く階段の方に向かいました。

「えっ、ちょっ、待って!」

私は慌てるあまり声をあげてしまいました。

「しーっ!」

彼が口に指を当てながら言ったので、私は慌てて口をつぐみました。そして二人で息を殺して階段の下を覗き込んだのです。

「何もいないじゃん」

その子はつまらなさそうな顔で言いました。

「本当だ……」

私はほっとして胸を撫で下ろしました。

「行こう」

そう言って階段に向かおうとしたとき、背後に妙な気配を感じたのです。

「誰!?」

私は振り返りました。でもそこには誰もいません。

「どうしたの?」

彼が怪しげな目つきで私を見ています。

「う、ううん。何でもない」

私はあわててその場を取り繕いました。

「早く戻ろうぜ」

「う、うん……」

私たちは再び階段に向かって歩いていきました。そしてあと数段というところで、またもや後ろを振り返ると、そこにいたはずの人の姿が消えていたのです。

「きゃあっ!!」

今度は悲鳴をあげて逃げ出そうとしました。

「おい! 何やってんだよ!」

「ごめんなさい!」

私は泣きべそをかきながら謝りました。

「本当に大丈夫か? 何かあったのか?」

心配したその子が尋ねてきました。

「あの……実は……」

私は恐るおそる、先ほど体験したことを話したのです。するとその子は真剣な眼差しでこう言いました。

「それきっとポルターガイストだよ」

「ぽるたがいすと……?」

私は首を傾げました。聞いたことのない言葉です。

「ポルターガイストっていうのは、いわゆる心霊現象のことなんだ。この家にはそういうのがいるんじゃないかな」

「じゃあ私にだけ見えるのかなぁ?」

私は不安げに呟きました。

「たぶんそうだと思うよ。ぼくにも見えないけどさ」

「どうすればいいの?」

私が尋ねると、その子は自信ありげに答えました。

「簡単だよ。目をつむればいいんだ」

「どうして?」

「いいからやってみなって」

私は彼の言うとおりにしてみました。すると……

「あれ? 消えた?」

確かにそこには誰もいなかったのです。

「でしょ?」

「すごい! どうやったの?」

私は興奮して彼に迫りました。

「別に特別なことは何もしてないよ。ただ目をつぶっただけだよ。それより早く寝よう」

「うん!」

私は嬉しくて思わず笑顔になりました。そしてその後、私たち二人は仲良く眠りについたのです。

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