僕と恐王の異世界転生譚 ~魔法の才能に恵まれなかった僕がいずれ恐王たらしめる時まで魔法使いとして世界中に僕らの強さを分からせる旅に出ます~

ガゼル!インペラー!カモシカ!

1.劣等生と悲哀



僕の名前はトレット・レッド・キャスパー、魔法の才能に恵まれなかったちょっと裕福な田舎者の少年だ。


こんな僕だけど将来はみんなに認められるような歴史に名を遺すような偉大な魔法使いになることを夢見て日々努力している。


何故魔法の才能が無いのに魔法使いを目指しているのかと言えば、恥ずかしい話だがただの憧れだ。魔力という不思議な力を自由自在に操り魔物を倒す!そんな魔法を使う彼らの姿に僕は心の底いから憧れを抱いてしまったのだ。


魔力は生まれたころにすでに決まっているものと聞くが、それでも僕は諦めない!いつか歴史に名を遺すような偉大な魔法使いになってやる!その一心で僕は頑張ってきた。


だが現実ってものはそう甘い物じゃない。魔法の知識を付けたところで、人一倍頑張ったところで、やはり超えられない壁ってものは存在する。


そんな超えられない壁に生れつきで、しかも初歩的なところでぶつかってしまった僕は自然と落ちこぼれになった。


幸い両親はそれなりに凄い職業の人達だったのでお金には困ったことはなく、そのおかげで魔法学校へも通わせてもらっている。


両親は僕に魔法の才能がないとわかっていてもいつも僕のことを応援してくれる。だからわざわざ魔法学校にも通わせてくれるし魔法についての本もたくさん買ってくれる。


そう!こんな僕の唯一の誇りさ。


でもそんな両親だからこそか落ちこぼれの僕への反動もそれなりに大きかった。


場面は変わってここは魔法学校。僕が何時ものように一人で登校していると前から何やら巨体な生徒が一人が子分2人を連れて僕の前へやってきた。


「おおい、トレット。何でまだ学校に来てんの?無駄に努力する様を晒すのがそんなに楽しいか?」


「魔力は努力しても伸びねぇんだぞ?」


「魔力のない落ちこぼれでも努力すれば報われるとか思ってんの?劣等生のレッドww」


「ぎゃははww」


「は、はは、でも学校に来ないとお母さんが怒るから、し、仕方ないよ」


「あん?」


彼はデブでブスなデッブス、その後ろの二人は彼の取り巻き。


これはいつもの光景だ。彼らは休み明けの日はいっつもこのパターンで僕に絡んでくる。


因みに劣等生のレッドは僕のあだ名だ。親が親なだけに僕には結構刺さる蔑称だ。



「このデッブス様には敬語を使えって言ってるだろ?」


「ご、ごめん」


「こいつ痛い目にあわさないとわからないんじゃないですか?」


「お前も仕方がないやつだなぁトレット、このデッブス様が直々に制裁してやるよ」


「や、やめっ((パンチ」


一通りの制裁を終え、彼らは校舎へと戻っていった。僕はだって?わかるだろ?


ボコボコにされて地面に転がってるよ。いつものようにね。


「うわ、またデブスのやつにいじめられてるよww」


「情けない、あれでもキャスパー家の血を引いているのかしら」


「やめてあげろよ、あんなのが子孫のキャスパー家が可哀そうだろw」


「確かにww」


周りからも笑い声が聞こえる。魔法の才能がない僕がこの学校に通っていられているのは父と母がコネを回してくれたおかげだ。そんな僕を気持ちよく思わない彼らはこうして僕をいじめている。


「本当無様だな。笑えて来るよ...はは」


このいじめ自体には慣れている。今更涙を流そうなんて思わない。


でも、こうして無様な醜態をさらしているといつも父と母の顔がちらつく。


あの二人は僕が息子だってことを恥じていないだろうか、僕の事を迷惑に思っていないだろうか、こればかりがいつも頭によぎってくる。


そんな自分の現状を悲観していると一人の女の子が僕に声をかけてきた。


「トレット君、大丈夫?」


彼女はウラギ・ルヲンナ、いつも暴行されてボコボコにされている僕を見ては心配そうにやってくる女だ。でも助けに入ってきたところを僕はまだ見たことがない。


そういう趣味なのかと疑ってしまう。何せ僕は自他ともに認める美少年だしね。彼女が僕にそういった気持ちを抱く気持ちもわかる。でもそのアピールに乗る僕じゃない。


何故か?僕は人に憐れまれるのがあまり好きじゃないからだ。ここはクールに流そう。


「だ、大丈夫だよ。心配しないで」


「大丈夫じゃないよ!あいつらトレット君が反撃できないくらい弱いからっていつもあんなにいじめてきて、ひどいよ」


子供はたまに無意識のうちに周りを気付つけるものだから仕方がないとこの発言を流せる僕は結構大人だと思う。


「さっ、早く学校に入ろう。トレット君」


「う、うん」


女の子に手を引っ張られる自分がとても恥ずかしい。


まぁ殴られても何されても平気さ、なんせ今日は魔法の筆記テストが返却される日だからね。


僕は魔法の才能はなくても魔法についての知識は人一倍ある。努力できるところで努力しないと損だからね。


一日中そんなことを考えながら学校生活を過ごしているとあっという間に時間が過ぎてゆき帰りの会がやってきた。テストが返される時間だ。


「あぁ早く帰ってこないかなぁ僕のテスト」


「さあて、皆さん。今日の授業はおしまいです。それでは今日は夏休み前ということで先日の魔法の筆記テストと共に今学期の成績表を返そうと思います。」


さぁ、来た


「アランさん、ベルーナさん、チャイカさん、デッブスさん.........」


名前が呼ばれていく、自分の番が来るのが楽しみで仕方がない。


「そして最後にトレットさん」


「はい!」


声高らかに、自信満々に名乗りを上げた。


聞こえてくる。周りの調子に乗んなよっていう心の声が、この時ばかりは気持ちが良い。


「魔法の筆記テスト、満点です。よく頑張りました。」


「ありがとうございます」


先生だけだ。素直に喜んでくれるのは、僕に熟女趣味なんてないが本気で惚れてしまいそうだ。このしわのある笑顔に。


そう思いながら僕は気持ちよく自分の席へと戻っていった。


「よかったね、トレット君!」


「あ、ありがとね、ウラギちゃん」


おっと、この女の事を忘れていたな。


感謝するよ。その素直な言葉に。


父上も喜んでくれるかな。心が躍る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


家へ帰宅した僕は意気揚々と父上のもとへ向かった。いじめで辛い学校生活もこの日のために頑張っているようなものだ。僕の努力の結晶であるこのテストの結果を父に見せることが僕の唯一の楽しみだ。何故なら父は何時も僕を褒めてそして応援してくれるからだ。


「父上、学校から返された先日の筆記テストです」


「お、もう返されたのか。どれどれ.....満点じゃないか!凄いなトレット!お父さん剣術は凄いけど魔法学はさっぱりだから憧れちゃうよ」


因みに僕の父上ノーラン・ロイ・キャスパーは冒険者兼竜騎士だ。


かつてはこのエスタニール王国に多大なる被害を与えた黒龍を討伐した騎士団の一員だった僕の誇りの父親だ。


「父上!ありがとうございます。これも日々の努力あってこその結果ですよ」


「凄いなトレットは、お父さんがお前くらいの頃何て魔法学だか何だかさっぱりで剣術ばっかりしてたのに、お前は随分と頑張ったんだな。だからって言っちゃなんだがな、トレット」


「え、あ、はい」


「えっとだなぁ....」


「父上?」


「正直に言おう、魔法はもうやめなさい」


いきなりだった。これまで僕を応援していた父がいきなり僕に突きつけてきた。

これまで見て見ぬふりをしてきた現実を。


「もう自分でもわかっているだろう。どれだけ頑張っても、お前がどれだけ努力しても、お前は魔法を使えない」


待ってよ、父上。


「お前が人一倍魔法が好きなのはわかる。だがこれだけ勉強しても魔法が使えないってわかっただろ?」


そのために?そのために僕を学校に行かせていたの?


「魔法を諦めろ」


僕、筆記で満点取ったんだよ?父上。


「剣術を学びなさい。剣術ならお父さんが教えてやるぞ!」


僕を否定しないでよ。


「だから、な?わかってくれ、トレット」


待ってよ。


「お父さん達もそろそろ恥ずかしいんだ...」


僕の事が?


「悪いことは言わない。今からでも剣術を、」


父が言葉を言い終える前に僕は勢いよく扉を開け走り出した。


「あ、トレット、待て!」


分かりきっていた真実と、見て見ぬふりを続けていた真実と、父はちゃんと向き合おうとしていたのだろう。


僕に道を用意しようとしていたのだろう。でも僕は逃げ出した。


泡沫が割れる感覚だった。ぎりぎりで形を保ってたものが一瞬にして崩れた。


息がつまる。心臓が痛い。


デブスの野郎に殴られた時より痛かった。


涙すら流れない。


やっぱり僕は、落ちこぼれだ。

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