ニ 怪異
それでも、憧れの先輩との恋が実り、時折、先輩からもらった〝第二ボタン〟をニヤニヤ笑顔で眺めながら、Aさんとしてはたいへん幸せだったんですが、その一方、この頃から彼女の周りで変なことが起き始めたんです。
学校でも家にいる時でも、Aさん、自分一人になる時間ができると、誰かに見られてるような視線を感じるようになったんですね。
それも、ただ見られてるだけじゃない……強い憎しみを込めて睨まれているような感じのする、まるで刺すような鋭い視線なんです。
その視線に振り返ってみたり、辺りをきょろきょろ見回してみたりするんですが、もちろん誰もいるはずがありません。
まあ、ただの気のせいかとその都度思うようにしていたんですが、それにしてはそう感じることが頻繁にあるんですね……。
いや、そればかりか、その内、ただの気のせいとは片付けられないような、奇妙なものまで見かけるようになってきたんです。
いつもの強い視線を感じて、これまたいつものようにAさんが振り返ると、ほんの一瞬、視界の隅に誰かの影が映り込むんですね。
なぜかすぐに消えてしまい、見えるのはほんと一瞬のことなんですが、よく見慣れた紺のセーラー服を着ていて、どうやら同じ高校の女生徒みたいなんです。
顔はよく見えないんで、知ってる生徒なのかそうでないのかもよくわからない……ただ、髪型や体型はいつも一緒というわけではないので、おそらくは幾人かの違う女生徒が入れ替わり立ち替わり現れている……そんな風にAさんには思えたそうです。
睨むような強い視線を感じて振り返る度に、視界の隅に一瞬だけ映り込む女生徒達……特に心当たりがあるわけでもないんですが、悪意に満ちたその視線に、彼女達から恨まれてるんじゃないかと恐怖を抱くようになるAさん。
そのことを先輩や親友のBさんにそれとなく相談してみたんですが、まあ、常識的に考えればあり得ないことですからね。先輩もBさんも「きっと気のせいだよ」と言って取り合ってはくれません。
でも、親しい二人の人間からそう言われると、なんだかそんなような気もしてきて、「きっと気のせいに違いない。三年に上がって受験生になったし、先輩も遠くに行ってしまったりと環境が変わったんで、いろいろストレスを感じているせいなのかもしれないな…」と、自分でも無理矢理そう思うようにするAさんだったんですが……事態は悪化の一途をたどって、ついには金縛りにまで遭うようになったんですね。
深夜、いつものように自室のベッドで眠っていたAさんは、妙な寝苦しさに襲われて目を覚ましました。
嫌な寝汗もかいたし、水でも飲もうと思って起き上がろとしたAさんだったんですが、すると、身体がまったく動かないんです。
目は開いているんですが、腕も脚も、指一本すらもぴくりとも動かすことができず、Aさん、「ああ、これが金縛りってやつなんだ……」と、最初は怖いというよりも不思議な感覚と若干の好奇心に捉われたみたいです。
ですが、それは間もなく強い恐怖の感情によってとって替わられることとなりました……。
Aさん、暗闇の中で動けないまま目を凝らしていると、お腹の上に誰か乗っていることに気づいたんですね。
やっぱり顔は影になっていて見えないんですが、あの、一瞬見える人影と同じく紺のセーラー服を着ている女生徒なんです。
さすがにそれにはAさん、さあっ…と全身から血の気の引くのを感じたんですが、次の瞬間、その馬乗りになっている女生徒がAさんの首を両手でぎゅっと絞めてきたんです。
遊び半分やふざけてしているようにはとても思えない、ものすごい力で締めあげてきて、明らかに殺意を持って首を絞めて幾日るんですね。
息ができなくてものすごく苦しいんですが、身体は金縛りでびくともしないので、Aさんにはどうすることもできません。
そのまま意識が遠退き、気を失うように眠ってしまうと、気づけばもう朝になっていたそうです。
ですが、そんな恐ろしい目をに遭うのはその日ばかりじゃなかったんです……。
その翌日も、そのまた翌日も、そのまた次の次の日も、立て続けにAさんは夜中に目を覚まし、その金縛りと首を絞める謎の女生徒に夜毎悩まされるようになってしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます