第二ボタン
平中なごん
一 成就
〝第二ボタン〟と聞いて、なんのことだかわかる方はどれくらいいるでしょうか?
最近は制服もブレザー系の学校が多くなったりしているので、若い方だとピンとこない人も多いかもしれませんね。
〝第二ボタン〟というのは、詰襟の学ランの上から二番目のボタンのことです。今もやられているのかわかりませんが、一昔前には卒業式の日、この〝第二ボタン〟を好な男子生徒からもらうという風習が、女子達の間で盛んに行われていました。
なぜ、上から二番目のボタンかといえば、心臓──つまりは〝ハート〟に一番近いからだと云われています。もともとは出征する軍人さんの軍服が起源らしいのですが、一説に詰襟の第一ボタンを取るとしまりが悪くなるので、一つ下の第二ボタンにしたという話も……。
このお話は、現在40代になる主婦の方がまだ高校生だった頃の、そんな〝第二ボタン〟にまつわる奇妙な体験談です……。
その方のお名前を仮にAさんとでもしときましょう。
男子は学ラン、女子は紺のセーラー服という制服の高校に通っていたAさん、部活はサッカー部のマネージャーをしていたんですが、まあ、あるあるのパターンといいますか、部長だった一つ上の先輩に淡い恋心を抱いていたんですね。
その先輩、背が高くて見た目もいいし、成績もそこそこ、その上、サッカーも上手くて主将を務めるような男子ですからね、当然、女子生徒の人気も高く、ライバルも多い……。
でも、もう卒業してしまうし、卒業後は進学のために上京もしてしまうというので、親友で同じくマネージャーをしていたBさんに背中を押されると、思い切ってAさん、卒業式の日に先輩を呼び出して、「第二ボタンをください」って想いのたけを打ち明けてみたんですね。
まあ、どうせ断られるんだろうな…と、当たって砕けろの精神で告白したAさんだったんですが……ところがですよ。なんと、奇跡が起きたんですね。
ダメもとだったのに、先輩も「じつは俺もおまえのこと、前から少し気になってたんだよな。それで、誰にもあげずにとっておいたんだよ……」と、第二ボタンをAさんにくれたんです。
これも人気のある男子生徒のあるあるだったんですが、見れば学ランの他のボタンは全部なくなっているのに、第二ボタンだけは残っていたんですね。
先輩もAさんに気があって、他の女子に望まれても違うボタンを代わりにあげて、第二ボタンだけはとっておいてくれたんです。
つまり、予想外にも両想いだったんですよ。
こうして、思い切って告白したことが功を奏し、めでたくAさんは憧れの先輩とお付き合いできることとなりました。
とりあえず、まずはケイタイの電話番号とメールアドレスを交換して、毎日のように何度もメールのやりとりなんかをしたり……当時はまだスマホもSNSもなく、そんなガラケーの時代だったんですね。
デートにも一、二回は行ったんですが、先輩はすぐに上京しちゃいますからね。引っ越しやら何やらで忙しかったですし、直接はあまり会う機会もないまま、東京の大学へ通う先輩とは電話やメールでやりとりするだけの遠距離恋愛となりました。
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