【暴れて】人狼奴隷をスカウトして、最強冒険者を決める大会に出場した件【みた】

ぺぱーみんと

第1話

 「え、マジっすか?」


 短い赤髪に黒いジャケット姿、幼い顔立ちのその人間は呆然と役所の受付嬢に問い返していた。


 「はい。登録は二人からとなっております。

 ま、まぁ、締切まで、まだまだ時間はありますし、なんならギルド等で募集を掛けられてはいかがでしょうか」


 受付嬢は、あからさまにションボリしている、まだまだ幼さの残るその赤髪の人間を元気づけるように提案をした。

 淀みがないところを見るに、マニュアルか、あるいはその人間が犯すミスはよくある事なのかもしれない。


 「今でしたら、端末でこの帝国の冒険者ギルドのアプリをダウンロードしていただけたら、簡単にチェックできますし」


 「わかりました。ありがとうございました」


 受付嬢に力なく、それでも丁寧に接してくれた礼を言って、その人間――イオは役所を出たのだった。

 旅行カバンを手に持ち、トボトボと、携帯端末を操作して地図アプリを起動させる。

 それを見ながら、先程受付嬢に提案されたこの帝国のあちこちに点在している冒険者ギルドのひとつへと向かう。


 「マジかァ。応募要項ちゃんと読んだつもりだったんだけどなぁ。

 マジかぁ」


 そう呟いて、今度はジャケットから四つ折りにされたチラシを取り出す。

 この帝国で四年に一度、それも一年という期間を設けて行われる一大イベント。

 世界中の腕におぼえのある冒険者達を集めて戦わせる、帝国冒険者闘技大会。

 イオはこれに参加するため、わざわざ帝国までやってきたのだ。

 なのに、参加登録すら出来なかった。

 人数が足りていないから。

 最低二人から登録できるとは、チラシには記載されていなかった。

 テンプレ文句を貼り付けた文字が踊り、その一番下には実行委員会の電話番号に、Webアドレス。

 さらに御丁寧に、詳しくはお問い合わせくださいの文字。


 「ってことは、仲間集めないとなのかぁ。

 回復役かな。いや、その辺は効果が付与されてる薬物ポーションを買えばいいか。

 一番安い、【身体強化】系のやつ買おう。あと回復のやつ。

 と、なれば、仲間にするのは純粋に強いヤツが良いよな」


 とりあえず落ち込んでばかりはいられないので、イオは冒険者ギルドを目指す。

 もしかしたら、いい人材に巡り会えるかもしれないと考えて。


 その考えが甘かったとイオが知るのは、この五分後のことである。


―――――――――……


 「マジかよぉ」


 インターネットカフェのように、個室になっている冒険者ギルドのパソコンルームで、シクシクとデスクに突っ伏して、なるべく小声で、イオは声を漏らした。

 闘技大会希望の人材はすでに引き抜かれた後で全滅。

 残るのは、闘技大会には出る気の無い、いわば普通のお仕事目的の人達ばかり。

 無理矢理誘うわけにはいかない。

 

 「うぅ、どうすればいいんだ」


 八方塞がりだった。

 しばらく突っ伏して、頭をグリグリとデスクに擦り付ける。

 と、腹の虫が鳴いた。


 「よし、またあとでこれは確認しにこよう!」


 情報は更新されるものだ。

 なにより、悩むのはイオの性にあわないのである。


 「まずは、飯だ!」


 そうと決めればイオの行動は早かった。

 ギルドを出て、すぐ隣のスーパーマーケットへ入った。

 その出入口においてある情報誌の一つを手に取り、帝国と言うよりは、現在地である帝都内で一番近くにある店を調べる。

 そうして向かったのは、喫茶店だった。

 食べ盛りの男子学生に人気の値段が安く量が多いメニューが豊富なお店らしい。

 帝国に来るまでに色々な場所を旅してきたイオだが、やはり食べ物は楽しみのひとつだったりする。

 


 「あっはぁ♡︎

 いただきマース!!」

 

 目の前には、帝国の観光名所であるフィシテリオ連峰を再現した、厚切り肉とハムの合盛りカレー丼(大盛)。

 それをガツガツと制覇、もとい食べていく。

 食べるのに夢中になっていたイオだったが、半分ほど連峰を制覇、ではなく攻略し終えた頃、店内で歓声が上がった。

 スポーツか競馬の中継でもやっているのだろうか、と口をモゴモゴさせながら店内を見ると、客たちは皆店内に備え付けられた高画質で大きなテレビ画面に釘付けになっていた。

 厚切り肉を頬張ると、イオも席から身を乗り出して画面を見た。

 そこには、いったい何千年前だとツッコミを入れたくなるような、古代の奴隷戦士たちの恰好コスプレをした、現代の奴隷達が殺し合いを繰り広げていた。


 「帝国って、こういうの規制かからないのか、すげぇなぁ」


 もしかしたら有料チャンネルなのかもしれない。

 他の国だったら規制によってまず放送できないが、帝国は別のようだ。

 そもそも、この現代において帝国は奴隷を有する数少ない国のひとつだ。

 と言っても、人種差別のそれではなく犯罪奴隷ではあるが。

 さらに、死刑の無い他国から重罪人を引き受けているという話も聞いたことがある。

 その国では死刑がないので、税金で禁錮ウン十年となった罪人を食べさせるために使われる税金が無駄ではないか、ということになったとか。

 そんな罪人の流刑地扱いになっていることに、帝国は何も思わないのか疑問だったが、


 (こういうことか)


 罪人同士を戦わせる、これが一つの娯楽になっているのだ。


 (ところ変われば、文化も違うなぁ)


 少なくとも真昼間から流せるに、子供への視聴規制はないのかもしれない。

 さらに、死刑のない他国からすれば、税金でタダ飯を食べさせなればならない者たちを処分できるということか。

 これに関する賭け事も許可されてるようだ。

 画面が切り替わり、配当金が表示された。

 喫茶店にいる客たちから歓声やら悲鳴やらが、聞こえてくる。

 と、隣の席のお昼休みらしきスーツ姿の男性たちの話し声が聞こえてきた。


 「今日は奴隷王の死合、やるかね?」


 「やるんじゃね?」


 イオは携帯端末を取り出すと、即座に奴隷王について検索をかけた。

 ちなみに、検索時に打ち込んだ単語は【帝国 奴隷王】である。

 すぐに関連ページが出てきた。

 どうやら、画面の向こうであるコロシアムで殺し合う犯罪奴隷の中でも無敗無敵の者に与えられる称号らしい。


 「強いんだ、奴隷王」


 しかし犯罪者である。


 「こういうやつがパーティにいたら、予選も本戦での優勝も楽勝なんだろうなぁ」


 だがしかし、犯罪者である。

 そして、楽勝するのはイオの本意ではない。

 何故ならつまらなそうだからだ。


 「うーん」


 気づけば、あのガッツリメニューは消えていた。

 そして、イオは【奴隷 パーティメンバー 方法】で検索をかけていた。

 その検索結果を見て、イオはお冷を吹き出した。


 「仲間にできるんかいっ!!?」


 ゲホゲホと噎せながら、イオはその結果にツッコミを入れた。

 なんと、あのコロシアムに出ている犯罪奴隷限定になるが、今回の闘技大会に限れば仲間にすることが、つまり、勧誘することが認められているのだ。


 「運営っつーか、公式頭おかしいんじゃねーの?!」


 「お兄さん、なんか問題でも?」 


 どうやら騒ぎ過ぎたようだ。

 賭け事と関係なくギャースカ喚いていたイオに、隣のボックス席に座っていたスーツ姿のおじさん達が声をかけてきた。


 「あ、その、帝国に来たばかりでカルチャーショックについ叫んでしまいました」


 「あー、コロシアムのことか。

 うんうん、初めての人は驚くよねぇ。

 ああいうのが苦手ならここの店主か店員に言ってチャンネル替えてもらいなよ。

 今日は珍しくこのチャンネルだったから見てただけで、いつもならワイドショーとか旅番組を流してるからさ」


 どうやら、このチャンネルなのは、何の因果かたまたまだったようだ。


 コロシアムで戦っている奴隷を仲間にする方法は、主に二つ。

 ひとつは金を払ってコロシアムの主催者から犯罪奴隷をレンタルする方法。

 これには、万が一死亡した時のことも考えられているのでかなりの金額になる。

 もうひとつは、犯罪奴隷と戦って負かした場合。

 これには、戦うための登録料が取られるがそれだけだ。

 さらに、二つ目の方法で手に入れた奴隷は、手に入れた人物の所有物扱いになる。

 なので、手に入れた奴隷が問題を起こした場合は、その主人の責任となる。

 その奴隷に万が一殺されても、コロシアム側は責任を負わないなどなど。

 とにかく二つ目の方法はリスクが高かった。

 金か実力、どちらかを示せということらしい。

 実力主義国家としても有名な帝国らしい、といえばらしい制度である。

 なにせ、この国は女だろうが男だろうが分け隔てなく能力によっては組織の幹部になれる国なのだ。

 

 運も実力のうちというが、イオを育ててくれた師匠曰く、実力は金で買えるらしい。

 お金があれば、それだけ優秀な人材を手に入れることもできるし、その優秀な人材を家庭教師にでも付ければ否応なくある程度の実力を得られるから、ということらしい。

 貴族や金持ちを、イオの師匠はよく例に出していた。

 あとは、ゲームに例えることもよくあった。

 課金したらしただけ便利なアイテムを手に入れることができる。

 だからこそ、実力とは金なのだ、と。

 貴族出身らしい師匠が言うと、ほんとそうだなとしか思えなかった。

 実際のところ、イオの師匠は強かった。

 魔法なんて使えなくても、強かった。

 身体強化だけで、この世の食物連鎖の頂点たるドラゴンを素手で殴り飛ばせるのは、世界ひろしといえど師匠くらいだとイオは考えている。


 追加注文した食後のアイスティーを口にしながら、イオはそんなことをつらつら考えていた。


 あの強さに追いつけ追い越せをするには、まだまだ強さが足りない。

 だからこその、この闘技大会である。

 これに出場して、自分の力量をはかるのだ。

 つまりは、自分のための力試しである。

 しかし、優勝もしたいというのも本音だったりする。

 何故なら、優勝者には破格の賞金が出るからだ。

 今後のためにも金は欲しい。

 金は大事である。

 なぜなら、腹を膨らませてくれるし、それなりのグレードのホテルにだって泊まれるからだ。

 イオは金がそれなりに大好きな人間であった。

 だから、ケチるところはケチるし。

 お金を掛けるべきところには掛けるようにしている。


 「奴隷王って、人狼なのか」


 奴隷王の代替わりは早い。

 より強い者が先代を殺すからである。

 今の奴隷王と呼ばれる犯罪奴隷は、人狼の青年だった。

 それも、コロシアムの公式ホームページには今の奴隷王を含め、多種多様な犯罪奴隷達の顔写真が公開されていた。

 それは加工されており、かなり写りが良い。

 中には、奇跡の一枚だろ、というくらい綺麗に撮影されているものまであった。

 定期的に総選挙なる人気投票も開催されているようで、今の奴隷王は上位三位以内に常にランクインしているらしい。


 人狼といっても、人間の方の血が濃く出たからか、容姿は人間のそれにモフモフの獣耳が付属していた。

 そして、それなりのイケメンだった。


 「殴って顔ボコボコにすれば、大人しく仲間になってくれるかな」


 師匠曰く、拳で語るのに男も女もない。

 分かり合える時は分かり合えるし、ダメな時はダメなものだ。

 それと、強ささえ示せば良いのであり、イケメンの顔をわざわざボコボコにする必要もないのだが、イオを育てた師匠の悪い影響を受けまくっているので、それがいろんな意味で悪いことにあたるだなんて考えてもいない。


 調べてみれば、犯罪奴隷への挑戦は随時受け付けているらしい。

 こういう飛び込みも視聴率を稼ぐためのパフォーマンスなのだろう。

 コロシアムの公式ホームページを読み進め、挑戦する場合の注意事項にも念の為目を通す。

 そこには、【死んで肉片になっても文句はいいません】、要約するとそんな意味合いの誓約書にサインすることが必須になっているとあった。

 死ぬ予定も肉片になる予定も当面無いので、イオは自分には関係無いな、と結論づけた。

 そして、喫茶店のメニューへまた視線をやる。

 アイスティーだけでは満足出来なかったので、なにかデザートを食べたい衝動に駆られたのだ。


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