奇談 イカサマ

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イカサマ

 「畜生がァ!てめぇ嘗めたことばっかしやがって!我慢ならねぇ、こっちが腕をつかめねぇのをいいことに好き勝手してくれたなぁ…だけどよぉ…地獄に銭子は持ってけねぇなぁ!!」「バヒュゥン」


 あたくしめに啖呵を切ったマヌケは結局自分が担架に乗る事になりました。嘗めているのは自分なのに、鏡を見ている事にも気が付かないとは犬猫のレベルですね。

 おっと、自己紹介が遅れました。あたくしめはしがない賭博師です。もちろんオモテで出来るような事ではございませんので、ウラの方々の世話をさせて頂くのですが、わたくしとてバカではございません。入念な仕掛けをして、逃げ道と反撃策を用意しております。相手にトリックが見破られたとしても相手が口を聞けなければ何もできません。そういう事です…

 話は変わりまして、いまからあたくしめが相手をさせていただくのはこの世界では有名な勝負師の方なのですが…もちろんイカ師のメンツに賭けて負ける訳にも、バレる訳にもいきません。いえ、正確にはバレようとも生かす訳にはいきません。

そう思惑をめぐらせていると相手の方が話しだします。


 「なぁ、兄ちゃんはこの仕事長いのけ?俺はよぉ…何故か引きが良すぎてさ、誰も相手してくんねくなったんだわ。だから兄ちゃんが相手してくれるってんで嬉しくて嬉しくてよぉ…とりあえず三牌雀でもしようか…」


(三牌雀とはウラで最近人気の賭けで、通常の麻雀とは違い、2つの牌を持ち、牌を1つ取る。一部の牌は中央に公開されている。鳴きは無し。役を揃えるまでが早く、高速で回して行く事でたくさん遊べる事、短いながらに意外と頭が要ることが特徴。)


「えぇ、分かりました。とりあえず並べますね。」


そう言ってあたくしめは牌を台に混ぜて並べました。


 「では、早速始めましょうか。」


あたくしめの言葉を初めにお互いが慣れているので無言で準備は終わり、ゲームが進みます。

 ルール上天和などの即上がりが多い故にイカサマもし易い。なにせこのゲームはあたくしめがイカサマのために作り、広めたのですから…

 そうこうしてるうちに初のあがりとなり。


「ドラ貫二巡内」


同じ牌を3つ集める役をドラで二巡以内に作ったので上がれたのです。もちろんシクンでますよ…二巡内にしたのは警戒度を下げるためです。

勝負師の勘でしょうか…


 「兄ちゃん、次は無いからな…」

まさか下げたのに警戒されてしまいましたか…フフッ楽しみです…

 あたくしめが無言で牌を積んでいると、お相手があたくしめの腕をガっと掴んで牌を見てしまわれたのです…そしてこう仰りました。


 「なぁ、兄ちゃん…こりゃあ良くねぇよ、見え見えだな、牌が綺麗に並びすぎてる。」


かかったなァ…カモがァ!


 「ハハハハハ…賭博の悪魔を嘗めない方が良いですよ旦那。あんたがここに来た時点であたくしめの勝ちは決まっていたのです。このバーの看板に書かれた注意を読まなかったのですね?『人の箱に入ったものは箱の持ち主のもの』と言うのが目に入らなかったのでしょう。つまり、このバーは…この箱はあたくしめの物、この中にある物は全てあたくしめの物、貴方様のお命さえも…今ここで有り金と靴を出してくれたら命は助けましょう。御安心ください、靴は返します。」


少し考えたあと勝負師は答えた。


 「なぁ、金を出すのも靴を貸すのも命に比べりゃ安いもんだ。しかし、なぜ靴なんだ?それくらい教えてくれたっていいはずだ。」


あたくしめは脳なしのお客様にも分かるように親切に応えさせていただきました。


 「それは…あたくしめの能力は影を伝って伝播し、影を共有した者のプラスの確率を奪えるので…その運び屋になって欲しいだけなのですよ。もちろん影の共有は制限があるのでわざわざこうやって伝播するようにしているのです。」


そうすると侮蔑と諦めの眼差しをこちらに向けて。


 「なるほど、俺は人を蹴落とさなきゃ生きてけないと言うこt…」


こう仰りましたので、言い終わらぬうちにあたくしめは反論致しました。


「ハハッ、何を今更言うのかと思えば日頃牛、豚、鳥、魚、植物の命を奪って繋いだ命のくせに何をほざいているのですか。自分の命の為に人の命や金を悪魔に寄越すのは気が引けるけど、自分の命の為に家畜や栽培された植物の命を奪い、貪り、たまに残したりするのは平気と言うのですね?…あまりにも滑稽だ、愚かだ、都合のいいものしか見たがらない典型的なカマトトサピエンスじゃないですか笑。ヒトの金と命と影で生き延び、飲み食いするこのあたくしめと、ケモノの肉と野菜共とイネ科の草で生き延び、飲み食いする貴方との間にどれほどの違いがおありで?餌が違うだけだ。自分が食われる側になった途端に矛盾しながら異を唱えるのですか?ヒトなんて所詮脳みそだけがウリの動く肉詰め皮袋でしかないのだからそれはそうでしょうね笑」


図星のようで、口も聞けなくなったウィンナー野郎には影運びくらいしか仕事など無いでしょう。生憎その仕事も最後は動かないタイプの肉詰め皮袋になる未来なんですけど…

 ところでこれをご覧の皆様、皆様の影は本当に皆様の影でしょうか?最近小さな事でも不幸事が続いてるなら、どうもありがとうございます、あたくしめの餌となって下さり大変感謝致します。最近いい事ばかりの貴方、いつか貴方の幸せも美味しくいただきます故、どうか気長に戦々恐々とお待ちください。

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