13話-1年の自由時間
1
2の鐘が鳴って1800日が経過した。
未だに櫻巴には1回も攻撃が当たっていない。
「もう朝かー」
鐘の音が聞こえて目が覚める。
日記に1800日経過と書き込み伸びをする。
「ん~~~~っ、ふぅ...」
(1800日で鐘の音が鳴った。大体5年周期かな。明日から数えなおそ)
いつも通り湯船に浸かり食堂へ向かう。
彼方が食堂の扉を開けるとパンのいい匂いが漂ってくる。
「うわぁ、いい匂い!」
「おはよう、彼方。丁度スォレンが焼けたから食べようか」
「うん!」
彼方と櫻巴は朝食を摂る。
今日はスォレンとダーニラの実がテーブルに並べられている。
「そういえば、彼方」
「ん?」
「今日から開拓地に行くから暫く相手できないわ、ごめん」
「へ?」
出来立てのパンを頬張る口が止まる。
「何、すぐに帰ってくる。心配することはないも無い。魔法について詳しく知りたかったら零の所に行けば教えてくれるよ」
彼方が慌てて口の中を空っぽにする。
「いきなりじゃない?」
「あぁーさっき決まった。私は忙しいからね」
「そっかぁ」
「入学する枠がもうすぐ確保出来るから、それまでは彼方の好きに過ごしていいよ」
「え?町に行ってもいいの?」
「もちろん。お小遣いは用意してあるし、ご飯はあっちの食堂に行けば食べられる」
あっちの食堂とはつまり城に努めている人が使っている食堂の事だ。
「それじゃあ今日の片づけは頼んだよ、彼方」
「え、うん。気を付けてね~」
扉が閉まり静寂が訪れる。
彼方が見るにかなり急いでいるように感じた。
しかし、彼方はこれからの事で期待に胸がいっぱいだった。
(うは~!何やろう!ゲーム...は無いし、当然PCもスマホもないしなぁ~)
「案外やることないな~」
椅子にもたれかかって天井を見る。
ガチャッ
「あ、そうだ彼方。毎日日記付けてて偉いね~。それじゃ」
バタンッ
突然扉が開いて櫻巴がとんでもない事を喋って扉が閉まる。
余りにも一瞬の出来事であった。
彼方は慌てて後を追いかける。
「ちょっと!いつから見てたの!」
扉の先は人っ子一人おらず、最初から~という声だけが残されていた。
2
昼食を済ませ図書館へ向かう昼下がり。
「今日は何をしよっかなー」
彼方は特にやることが無くて暇だった。
町に行っても知らない人ばかりで疲れる、娯楽も無いときたら魔法の勉強しか選択肢になかった。
(魔法しかないよねー)
気づけば図書館に足を運んでいた。
「失礼しまーす...」
「んー」
零は忙しそうに書類を処理している。
こちらを見るまでもなく声で判断しているのだろう。
(うぅ...話しかけづらい。本でも読もうかな...)
「本、読んでも良い、です...か?」
「んー」
彼方の細い声も良く通る程の静寂のなかで、短いやり取りがなされる。
零は相変わらず書類を処理するので忙しい。
彼方は魔法について教えてもらおうと思ったが、諦めて本を読むことにした。
彼方が零に魔法の事を聞くのに30日を要した。
このことは恥ずかしいので日記に書くことはなかった。
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