ありがとう、そばにいてくれて
水月美都(Mizuki_mito)
第1話
オレの記憶は部分的に欠けている、まるでパズルの無くしたピースのように。
何かとても大事な事まで忘れてしまった様な気がするのに、思い出そうとすると割れる様に頭が痛くなる。
ただひとつ言えることは、この欠けた記憶を追いかけないこと。
それに付随して、オレの中の【性】を認めないこと。
オレは男として生きていく、そう決めたんだ。
◇◇◇
「涼、最近稽古サボってるって?」
朝、登校前に弟の竜が声を掛けてきた。
オレは後ろめたさもあり、顔を合わせないで返事をする。
「わりぃ竜、婆さんに上手く言い訳しといてくんないかな。LIVEが近いんで練習しないといけないんだよ」
「良いけど……」
竜は傍に来て、オレの顔を真っ直ぐ見詰め溜息をつき言った。
「いい加減にしろよ涼。お祖母様はお前を……」
「そんな訳ない、オレは竜のオマケだし。何しろ嫌いな女の子供なんだからな」
竜の言葉を遮り自虐的に笑い吐き出す様に言う。
この同い年で腹違いの弟とは中学まで一緒に登校してたが、高校は違う学校へ入学した。
奴はお堅い進学校へ、オレは私服で自由な校風の学校に。
前々からバンドに興味があったから、入学して直ぐに軽音に入って夢中になった。
花も好きだけど音楽は昔からオレの生きる力だ。
どんなに辛い時もヘッドホンを着けて音楽を聞くと、癒されたり心を揺さぶられたりして、何時しか自分で曲を作りたいと思う様になっていた。
「分かったよ涼。お祖母様には俺から説明しておく。その代わり、ちゃんと家には帰ってきてよ」
「サンキュ竜、我儘言ってゴメン」
オレよりも背の高い弟を見上げ、笑いかけ拳で胸を軽く叩く。
竜は表情暗く朝食も食べすに登校して行った。
本当はオレも分かっている。竜にばかり嫌な事を押し付けているって。
ありがとう、そばにいてくれて 水月美都(Mizuki_mito) @kannna328
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