閑話 剣に剣士

「師匠、どうでした?美味しかったですか?」


け、剣が、無い…!

ど、どうしよう…剣が無い私に価値なんて…


「え…あ…その…ご、ごめんなさい!」

「…えっ!?」


剣を…剣を探さなきゃ!


ーーー


「はぁ…はぁ…ようやく止まりましたね師匠…」

「す、すまないレア…しかし剣が無いと思うと声が出なくて…剣を取りに行くとも言えなかったんだ」


ほ、本当にすまない…

私の馬鹿みたいな怯えでレアを走らせてしまった…


「これまた難儀ですね…」

「うむ…すまないなレア…」


レア…こんな私にも同情してくれるのか…?

…やっぱりレアは優しいな


「…よし!師匠!それ、治しましょう!」

「え…?治すってどうやって…」


治すなんてそんな簡単に…


「街の暮らしに慣れるのです!山籠りでその癖が付いたのなら街に慣れれば癖は消える…はず!」

「そ、そうだな…暫く、街に居よう」


わ、私が正確に伝えなかったせいでレアが勘違いをしている…!?


ど、どうにかして訂正しないと…


「師匠、何か困った事があったらなんでもしますからどんどん言って下さいね!」

「…!わ、分かった」


な、なんでも!?

レアに…なんでも…


う、訂正しようと思ってたのに…

駄目なのに…


「じゃ、帰りましょうか!」

「…いや!」


ひ、一つだけ、一つだけお願いしよう

一つだけ…これはレアに負担をかけない…筈だから


「えっ…いや、なんで…?」

「あの…その…早速お願いが一つあるんだ」


あのときの約束をレアは覚えているだろうか…

覚えて居なかったとしても、覚えていた上で無視していたとしても自業自得だ


でも、それでも、レアには…好きな人には

名前で、呼んで欲しいんだ…


「何ですか!何でも言って下さい!」

「その…俺の事は師匠じゃなくてセイルと呼んで欲しいんだ…」


このお願いは断られるかもしれない

でも、それでも私は諦めきれないんだよ、レア…


「…そうだったな、セイル」

「…!レアっ…!」


…っ!覚えててくれた!

許してくれた!


やった!

これで…レアと対等に…


ーーー


あれは…レアとアリス?

あんな所でなにを…


「師匠…急にセイルさんの事名前で呼ぶようになりましたね?」

「それは…」


っ!?

なんで…レアが責められて…


もしかして…レアはアリスと…

いや!まさか…そんなわけ…!


「…いや、良いんですよ、ただ急に名前で呼ぶようになった理由を教えて欲しいんです」

「あー、約束だったから…?」


ッ♡

やっぱり、約束覚えててくれたんだ…♡


「ふーん、そうですか、なら良いんですよ」

「そうか」


でも…私のせいで、レアが責められてる…?

私が、アリスが居るのにレアに気を遣わせて…?


ーーー


「なぁレア、俺を駄目な師匠を罵倒してくれ殴ってくれ、俺に…罰をくれ」

「…え"っ!?!?!?」


私のせいで、レアに気を遣わせて…!

それに気付かず…私は…


しかもレアは、まだ優しくて…

私の身勝手でレアを…レアを…っ!


「頼む、頼むよ…罰をくれよ…」

「えぇ…悪い事してないのに罰なんて…嫌ですよ」


悪い事をしてないなんて…

あぁ…レア、レアは優しすぎるよ…

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