第4話
結局、何一つ盗まれる心配はないから気にすることはないというおじいちゃんの言葉を受け、
「念のため、警察に通報した方がいいんじゃないの?」
と、すみれが言ったものの、おじいちゃんの回答はこうだった。
「心配はいらない。そもそも、これは君たち『天王洲中学探偵部』への挑戦状なんだろう?警察などに頼らず、自分たちで推理してみたらどうかな?」
こうして、三人は挑戦状が何を言わんとしているのか、宿題として持ち帰ることとなった。
――翌日、すなわち怪盗オゾンカの犯行予告日の放課後。
探偵部の部室に集まると、早速大井が問題提起を切り出した。
「昨日は、木材や工場設備、建物を問題にしてきたよね。でも、実はそれ以外にも盗めるものがあったらどうしよう?」
大井の発言に、部長が敏感に反応した。
「例えば?」
「例えば、製材の技術。盗もうと思えば盗めるんじゃないか?」
「技術を……どうやったら盗めるのかわからないけど、確かに」
部長は眉間にしわを寄せた。これは、まじめに考え始めている証拠だ。
「他にも、あるかな?製材所で価値があるもの」
すると、今までうつむいて黙っていたすみれが、手をあげた。
「あの……」
「お、何だい?製材所について一番知っているのは、すみれだ。なんでも気が付いたことを教えてくれ」
「はい、あの、やっぱり、人の気持ち……これが製材所で一番価値があると思うんです」
すみれは顔をあげて答えた。
「おじいちゃんは製材が大好きで。何十年も製材所を運営してきました。社員の皆さんも、私もこの会社が本当に大好きです。その気持ちも、大きな価値だと思うんです」
そういうと、急に照れ臭くなったのか、すみれはまたうつむいてしまった。
でも、部長はすみれの発言を無視しなかった。
「なるほど。確かに。怪盗は大岡製材所のすべてを盗むと言っていた。ということは、そのような気持ちすらも盗む。という挑戦にも思えるね」
そうして、しばらく三人に沈黙が訪れた。
技術を盗む?気持ちを盗む?
そんなこと、簡単にできるはずがない。
でも……最近見たドラマ。ひどい話だった。なんだっけ……
『お金の力で無理矢理企業を買収しちゃう会社と買収されちゃう会社の話。
買収される会社は、親会社の業績が悪くて安値なのに売られてしまった。
結局、売られた会社の社長や従業員の気持ちは踏みにじられ、培った技術も奪われることになるものの、結局泣く泣く買収に従うしかなかった……』
……
「買収!?」
すみれは大きな声をあげて、部長と大井を驚かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます