181 発表会来たる②美粧師と短い髪

 モデル総勢二十五人にはそれぞれタンダやリラ・サモンといった美粧師とその弟子達が付く。

 そして化粧はともかく――服の画面ごとにどんな髪型に変えるのか、どう飾り付けるのかが前々から準備されていた。

 髪型。

 これがどうしたものか、と前々から言われていた。

 テンダーは短い髪を広めてみたい、と思っている。

 実際地方によっては現在彼女がしている様な、一部分だけ伸ばしてあとは短くしているという風習のところもある。

 実用としてはかつての寮、そして現在も楽――何と言っても、首の凝りが非常に減ったのだ。

 頭はもともと重いものだ。それを首と肩が支えている訳で。

 なのに長い髪は大概結われて上げられている。

 身分の高い女性なら夜会等でその髪型で張り合ったり。時代によってはうずたかく盛り上げ、なおかつ中に詰め物をすることもあったとか。

 一方、庶民の方でも長い髪は編まれてまとめられる。

 それはあくまで実用面の問題だ。家であれ外であれ、働く際に髪が広がってしまうのはよろしくない。

 だったら切ったらいいじゃないか、という声も時折上がるし実行する者も無くは無い。

 が、決して広まらない。

 何故か。


「まあ寝床で長い髪の方がいいって男が多かったからじゃね?」


 そうへらっと言ったのはファン医師だった。


「長い髪は俺も好きだぜ」


 にやり、と笑う男に対し、既に短く切っているタンダは肘鉄を食らわせていた。


「ったく男は。まあでもテンダー嬢、確かにそれはあるかもですよ。昼間ひっつめていた髪を自分の前だけ広げて、というのは何か特別感があるんでしょうね。かもじでない地毛をまたじっくりじっくりつやつやにしたものを自分の前だけ、というのがそそる、って言ってた奴も居ましたよ」

「そんなタンダは切ってしまったので俺は悲しい」

「知りませんよ。私は何かと肩凝りが激しかったのが解消されて清々しているんです。それに何で先生が悲しいんですか。あほらし」


 うわあ、と周囲が退いたのは言うまでもない。

 尤もこの二人が好い仲という訳ではないのは皆良く知っている。

 あくまで言葉遊びの範疇だった。


「実際美粧師からすれば、かもじの方がいっそ色々できていいんですよ。付ければ済むんですからね。色だって変えられるし。ヒドゥンさんだって女装の頃色々かもじ付けていましたしねえ」


 まあな、とヒドゥンも答えた。

 とは言え、今回のモデル達に強要することはなかった。


「私は今回この後ろだけ伸ばした髪も切ってしまおうと思っているのだけど、皆さんに強要はしません。楽でいいな、と思う人だけそうしてくだされば良いです」

 結果、予想に反して歳がある程度いった女優の方が賛同してばっさりと髪を切った。


「やっぱりちょっとまだ……」


と及び腰だったのは若い娘の方だった。


「まあそうよね」


 タンダもリラも大きく頷く。


「ある程度の歳になると、長い髪であれこれもう試してしまっているから、今更ってこともあるでしょうし、常に新たなことに挑戦していかないと若さに置いていかれるって不安もあるのよ」

「それに自分達が率先することの影響力の大きさも知っているしね。若い子はまだ自分自身で一杯一杯だもの」


 実際、若手のミナやアリュールといった辺りはテンダーが髪を切ってやってきた時にぎょっとした顔をしたものだった。


「何お嬢さん方、俺が長い髪を揺らしているのは平気で、テンダーさんが短いのはおかしい?」


 さらっとその時ヒドゥンは言っていたが、ああこれは見込みを疑っているな、とテンダーは思ったものだった。

 少女達はいやそんな、と焦った笑顔を浮かべはしたが、やはり髪に関しては実に保守的だった。


「まあ仕方ないでしょ。家庭のしつけが良い子程、抵抗はあるってものよ」


 マリナはそう言って耳の下辺りで切り揃えた巻き毛の感触を楽しんでいた。

 そして基本的に短い髪の方が多かったことで、髪飾りもまた、華やかなものになるのだった。

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