177 ポーレとの最後の冬④友人達は困惑する
「何を言ってるんですかテンダー様」
それにはフィリアだけでなく、ポーレも、工房の二人も驚いた。
驚かないのは、やはり身内認定で招かれていた当事者であるヒドゥンだけだった。
「私はやっとテンダー様がちゃんとご自分の意思で婚約者の方に巡り会ったことがとても嬉しかったのに……」
「だってフィリア、まだまだ私達結婚しないし」
「いえいえもう結構な年月婚約のままですよね? ヒドゥン様も身を固めてこそ」
「いやごめん、俺はまだいいと思ってるし」
ひょい、とヒドゥンは片手を挙げてフィリアに返す。
「そうよフィリア。そもそも私達仕事がそれぞれ忙しいから、そんな暇無いし」
「暇って……」
嗚呼、とフィリアが崩れ落ちそうになるところを女史が「大変!」と支える。
そして。
「……まあそんなことだろうと思ってましたがね」
ポーレは驚きも呆れもしたが、軽い鼻息一つで納得はした様だった。
*
「そんなことがあったの!」
翌々日、「123」での個室を借りたパーティでヘリテージュはテンダーに対し、呆れた様に目を見開いた。
「あー…… つい口が滑って」
「うーん……」
テンダーにとってそこで意外だったのは、ヘリテージュが難しい顔をしたことだった。
「いやそれは貴女、迂闊だったわよ」
「迂闊だったとは私も思うのよ。でも何というか、つい」
「まあある程度は分かるが」
カクテルを口にしつつ、セレも口を挟む。
「しがない庶民の私達でも、結婚式はしない、役所で籍を入れるだけと言ったら私はともかく向こうのご両親がなあ」
そう言っているセレはあれこれとそれぞれの道をどたばたとやっているうちにさっくり付き合っていた相手と結婚していた。
テンダーが知ったのは既に彼女が籍を入れてからだった。
「水くさい……」
「と言うから言わなかったんだよ。できるだけうちうちでやりたかったんだ。皆が関わるとどうも大ごとになるし、それにうちが対応できない」
「まあそれは分かるわね」
ヘリテージュも頷いた。
「下手に私やエンジュが行ってもセレのご家庭の方々に気を遣わせてしまうもの」
後々で祝いを送る程度にした、ということだった。
庶民ばかりで所帯を持ったセレからすると、下手に大物の知り合いを持っているということは知られたくなかったのだ。
特に自身の親類が集まりかねない場所では。
「だけどテンダーの場合は違うだろ?」
「うーん……」
「そもそもヒドゥンさんはいいんですか?」
んー、と試作も兼ねた新メニューをつまんでいたヒドゥンはやや物憂げに顔を上げた。
「ここにはまあ、親世代居ないから言うけど、俺自身はしなくていい。テンダーさんがしたけりゃすればいい、だな」
「花嫁衣装姿とか、見たくないんですか?」
「テンダーさんが着ることのプレッシャーに押しつぶされる方がしんどい」
「プレッシャー?」
ヘリテージュはさすがにそれには眉を寄せた。
「花嫁衣装を作ることにあれだけ血道を上げているというのに?」
「着せたい、と着たい、は別だし」
さらりとヒドゥンは言う。
「服ってのは似合う、と着たい、は別だし。そら、テンダーさんが花嫁衣装着れば似合うとは思うけど、着たくないひとには無理に着せたくないし」
「テンダー?」
ヘリテージュは友人の方を見る。
「着たくないの?」
「まあね。いえ、このひとと結婚したくないというわけではないの。するならヒドゥンさんだろうと思うけど、式は嫌だな、と」
「そりゃそうですよ」
ポーレがやや苛立たしげに口を挟んだ。
「ご学友の方々には失礼を承知で申し上げます。テンダー様にとって、ご夫婦の姿というのは、決して幸せを示してる訳じゃないんですよ」
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