168 発表会の準備①日程は逆算で

 一度やることが決まってしまえばテンダーの行動は早かった。

 まずはポーレの結婚の話がどの程度具体的になっているのか、そして時期は。

 それがはっきりしないと、新作発表会の日程がまず確定できない。

 逆算していかなくてはならないのだ。

 そこでとりあえずポーレの後見? として、カナン女史とエイザンのところを訪問した。

 テンダー自身、ポーレの保護者ではないのは分かっている。

 乳姉妹ではある。

 だがそれは現在市井で働いている今、どれだけ意味があるのかと思う。


「そううだうだ考えるなら、もう血の繋がっていない姉妹、でいいじゃないですか。だいたい私の口調はもう癖です。その上で貴女にどれだけずけずけ言ってるのは、傍から見ればただの身内ですよ。だいたい実の姉妹でもどちらかに敬語使ってしまう寒々しい関係もあるじゃないですか」


 言われてみればそうだった。

 自分が妹に対して使っている言葉は常に寒々しいものだった。


「形ではなく中身ですよ。という訳でお話し合いにはその体で」


 そうポーレは言ってテンダーを引きずっていったのだ。



「そうなのよ、この子ったら、いきなり来年の栄転? と結婚の話を持ち出して。まああまり話さない子だから仕方が無いけど」


 出向いた邸でカナン女史はため息交じりにそう言った。


「唐突なのは母さんも変わらないでしょう? それに別に反対なさらないと僕は信じていましたからね」

「だけどちょっとくらいは世間の姑の様な嫌な感じも体験してみたかったわ」


 いやそれはさすがに、とテンダーは内心カナン女史に突っ込んだ。


「ご存じだと思いますが、省庁の年度替わりは六月です。ですので、今回の様に遠方への栄転の場合、四月末から五月初めには向こうで生活の基盤を作らなくてはなりません」


 省庁の年度替わりについては、ヘリテージュからも時折聞いていた。

 彼女の夫君も年度末にはなかなか色々と忙しく、その都度サロンで話題にしていた。

 そう言えばヘリテージュのサロンにも連れて行かなくてはならないな、とテンダーは思い出す。

 新しい服のサロンでも着られる仕様のものを身に付けさせ、ポーレも回数はともかく、一緒に出向いていたのだ。

 演劇にする小説の話とかでマリナ達女優とも興味深そうに話をしていたこともあり、時間を取らなくてはな、と。


「では、式自体は」

「四月の終わりにはもう出発したいですから、半ばにできれば」

「四月の半ば」


 テンダーは大きく頷いた。


「場所とか規模とかは」

「私はできるだけ知り合いを呼びたいと思っているのだけど、この子ったら」


 カナン女史はふう、とため息をつく。


「母さんの知り合いなんて言ったらどれだけ話題になってしまうんだか! 僕はできるだけ内々でやりたいと思っているんです」

「お前はそう言うけど、ポーレさんはどうなの? きっと今回もそちらの工房の新しい花嫁衣装のお披露目になるのではないのかしら?」

「あ、いえそれは」


 テンダーは手を挙げた。


「実は、その前に新作の工房の服の発表会を『123』で行いたいと思いまして。その大トリに花嫁衣装を持ってこようと」

「あら、お披露目はそこなの? ってそういうのは、ポーレさんはいいの?」

「私は構いません。と言うか、私自身は見世物になるのは普段着ならともかく、やっぱり……」


 そこはさすがに言葉を濁した。


「まあそうよね。式は式として行いたい、か。そうねえ。だから息子と上手くいってるのね貴女」

「そそそそそれは」

「ああまあいいのよー。朴念仁の息子がようやくその気になってくれるかつ遠くまで着いて来てくれる相手っていうのは、本当に希少価値なんだから!」


 ほほほほ、とカナン女史は笑った。

 それは果たして誉められているんだろうか? とばかりにポーレはエイザンと顔を見合わせる。

 まあおそらく誉めているんだろう、とテンダーは口には出さないが、思った。

 結婚式は四月の半ば。

 だったら発表会は、三月だ。

 テンダーはそう決めた。

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