131 妹、再び帝都来襲②
「ともかく今は次の知らせを待つしかないですよ。最悪の状態を想定して!」
ポーレに言われ、テンダーはともかく自分の仕事をできるだけ進めておくことにした。
この件で仕事が遅れることがあってはならないのだ。
妹が途中で足止めを食らえば良いのだが――
そう考えてぶるぶると頭を振った。
おそらくあれは来る。
そう、何故かそうなってしまうのだ。
*
そして翌々日。
再び扉がとんとんとんと鳴らされた。
「帝都中央駅巡回警邏隊です」
そこか! とテンダーもポーレもがっくりきた。
父親からは地元の駅からの通報は無いという連絡が来ていた。
更に恐ろしいことに「気付かなかったが、上の子を連れていった様だ」という意味のことを付け加えていた。
「上の子って幾つだった?」
「四つの男の子じゃないですか」
「下が二つの女の子、そうそう」
そして家からは追ってゲオルグとフィリアがやってくるそうだ。
「先生! 母がやってくるそうです」
「まあ。もしかして、前々から呼び寄せたいと言っていた」
「ええ。もうこっちに留まってもらいますよ」
「そうそう、紹介しなくちゃならないひとも居るし」
じろ、とそう言ったテンダーはポーレに睨まれた。
「私のことはまあ後で。ゲオルグは連れ戻し係ですね。彼は慣れてますから。……でも、アンジー様の旦那様はいらっしゃらないのですかね?」
「まあ、忙しいんじゃない?」
「テンダー様に顔合わせないだけのデリカシーは芽生えた様ですね」
悪い顔をしているなあ、とテンダーは乳姉妹に対して思った。
「あのー」
しまった、と二人は顔を見合わせ、慌てて扉を開いた。
警邏隊員は何やらげんなりとした顔で扉を開けたポーレを見た。
「すみません、ちょっとばたばたしていて。……駅の警邏の方が一体」
「テンダー・ウッドマンズ嬢?」
「あ、いえそれはこちらで」
ポーレの背後からテンダーは顔を出す。
警邏隊員は三人。
報告している一人と、派手なピンクのドレスを着た子連れの女を両脇で固めているのが二人。
子連れの女。
テンダーは目を疑った。
「この奥さんが、自分は貴女の妹だ、無銭乗車なんてとんでもない、旅費は姉が払ってくれる、と言って聞かないんですよ」
「お姉様!」
覚えのある金切り声が耳に届いた。
「え、……貴女もしかして、アンジーなの?」
「酷いわお姉様! 妹と甥の顔も忘れたの!?」
「いや、甥っ子の顔は見たことが無いけど……」
「そこじゃありませんテンダー様。……私からも聞きたいです。本当に貴女アンジー様ですか? 名を騙る偽者ではないでしょうね?」
「お前はポーレ! 私に向かって何って言い方をするの! お姉様! お姉様のところでポーレはずいぶんと図に乗ってるじゃないの!」
思わずテンダーは耳を塞いだ。
昔より更に耳に響く声だ。
ただそれは側に居た子供にとっても同じ様で。
「ふぁ~あーあーあーあーん……!」
その場で子供は泣き出してしまった。
そして何やら特有の鼻をつくにおい。
「まあ! 何やってるのこの子は!」
彼女はぱん、と子供の頬を打った。
やめんか、と警邏隊員が彼女を取り押さえる。
「何なの、何なのよ一体! この子がいつまでたっても漏らすんだから、しつけてやっただけなのに!」
「……もしかしたら、ずっとこの調子なんですか?」
テンダーは脇を固める警邏隊員に訊ねた。
一人はうつむき、もう一人は遠い目をした。
それだけで彼等がここまでどれだけ苦労して二人を連れてきたか分かるというものだった。
いい加減可哀想になってくるが、テンダーはやはりなかなかすぐに自分の目の前の「妹」が本物であるか疑った。
何故なら――
「……貴女が本当にアンジーなら、何でそんなぶくぶくに太ってしまったの……」
「はあ? 何言ってるのお姉様! 私は変わっていないわ!」
何処が、とポーレはつぶやいた。
ピンクの服も昔は確かに似合っていた。
だが今は。
顔も丸を通り越して頬の膨らみで全体的に四角。
いや、まずそれどころかあごは何処? だ。
テンダーは斜め下の最悪の状態を一応想定はしていたが――これは斜め下どころか、ねじれの位置だった。
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