109 女優とドレスの件で「帝都女性画報」の記事に参加する②

「本日は現在様々な場面で活躍されている女優の方々をお招きして、現在ご自分の最もお気に入りの服と、その服へのこだわり、そして主についている現在の服飾工房の方々にお話をうかがいたいと思います」


 エンジュはそう言うと、スタッフを散らした。

 「画報」の特集記事であったので、今回は編集スタッフの大半を引き連れてきたとのことだった。

 女優そのものは沢山居る。

 ただ、演劇界においても細かく分けられた分野の中で最も活躍している――もしくは、急激に人気が出てきた、話題性がある、と見なされる人物となると別だ。


「最近は舞台だけでなく、活動写真の方にもお出になっていらっしゃるとか」


 記者はランダに問いかけた。

「ええ。あれは面白いですわね。何せ台詞が文字だけですから、こちらも舞台とは勝手が違って。だけど自分自身が動いている姿を見られるというのは非常に面白いと思いますわ」

「なるほど。ではずいぶんと現在はお忙しく」

「全くですのよ。だからこそ、今着ている服はとても楽で!」


 この時ランダが着ていたのは、例のコルセット無しの彼女の肢体に合わせたスーツだった。


「活動写真の仕事が増えてから、一日のうちに移動することがずいぶんと増えて。そうすると今までの服より、これがとても楽なんですのよ」

「楽。それは、今話題になっている……」

「ええ、コルセットではなく、軽いけれど胸をしっかりと押さえてくれる下着のおかげですわ」


 うわあ、とテンダーはそれを聞きながら顔がひきつる思いだった。

 ありがたい。

 非常にありがたいのだが、服よりまず胸用の下着について彼女が言及したのに少し驚いた。

 確かにそうなのだ。

 コルセットをやめれば腰は楽になる。

 が、大きな胸の人々にとっては重力に従って垂れようとする乳房を留めるものが必要だった。

 そこでコルセットで使われていた素材で胸を支える構造を試行錯誤した。

 きつすぎてもいけない。

 そして胸の形を保たなくてはならない。

 ドレスより、ある意味難題だったかもしれない。

 しかしともかく何とかそれを形にして、ランダには提供した。


「肩に少し食い込むかも」

「では状況に応じて布全体を広げて、肩の一部ではなく全体に重さを分散させる様に……」

「できれば薄くとも乳首が擦れない様に」

「わかりますわ~」


 ポーレもそこは納得した。

 テンダーより胸の大きな彼女は、大きいなりの苦労をよく知っていた。


「胸の下着、ですか」


 記者は少し戸惑った。


「ええ。でも大事なことではなくって?」


 ランダは質問に対し、艶やかな笑みで応えた。


「おかげで今はほら、腰の辺りも軽く、お腹が空いて倒れることもなく! 夜会で腰を締めすぎて気絶することもなく! 私は街を楽しく歩くことができるのですわ」


 そう言って立ち上がるとランダはくるりと回ってみせた。

 やや厚手の生地のスカートがひらりと舞った。

 さすがだな、とテンダーは思った。



 その後は撮影ということで、常に着ている服と、お気に入りのドレスの二着で写真を撮る作業にと移った。

 記者が話を聞く対象はテンダー達に移る。


「ウッドマンズ工房では現在それを中心に?」

「あ、いえコルセット無しの服や、それに合う帽子や小物に関しては私と彼女が担当しております」

「師匠のカメリア様はこれまで通りのドレスを」

「それはまた、何故ですか?」


 こういう曖昧で大きな問いは実に困る、とテンダーは思う。


「何故、というと」

「新しいものに対しては常に反発が来ますが、その辺りに関しては」

「新しいもの、というより私は楽で綺麗で似合うものを、と思っただけですが?」

「今までの服や下着では楽ではないと?」

「そうですね。少なくとも夜会のドレスはとても厄介です。私も多少出たことがありますが、ドレスのできる時間にはすこし間があります。その時にどうしようもない理由で体型が変わらざるを得なかった時の悲しさときたら!」

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