66 婚約相手の提示と父との会話③
なるほど、と私は頷いた。
「確かに我が家は何処かと組んできちんとした方向に事業や領地展開をしないとひたすら没落へ一直線ですね」
「……ジョージが言っていたのは間違っていなかったのだな」
「何かお聞きになりましたか?」
「お前が一年の時に帰ってきた時に、ジョージから話があっただろう? そこで助言をしたようだな」
「できる範囲で、です。所詮十四やそこらの子供ですから」
「そしてその後は本当にめっきり戻らなくなった」
「友人に誘われることが多く。辺境伯領などは非常に興味深かったですし」
「社交的なのだな」
「良い友を持っただけです」
「良い友を持てたのだな」
「はい。それも第一女学校に進学できたおかげです。ですからその学校に行けるまで飢えることなく、教育も受けさせてくれ、学校にも進学させていただいた件、この伯爵家そのものに対しては感謝しておりますし、フィリアやポーレ、庭師やその他使用人達のことを思うと、没落は望んでおりません」
「では婚約の件は」
「別に構いません。ただ」
「ただ?」
父は探る様な目で私を見た。
「私の婚約者、というひとがそれなりの価値があると思ったら、それこそ横入りしようとしてくるのではないですか?」
「……アンジーか」
ええ、と私は頷いた。
「……あれの倫理観は、母親譲りだ」
「それはよく分かっております。お母様は手紙で私を諭していらっしゃいました。見かけが第一だと」
「そんなことを書いて寄越したのか」
「あの方は私とは話したくもないようですし」
「そうなのか」
「そう見えませんでしたか?」
朝食と正餐の席で、父は一応話しかけはしてきた。
だが母から話しかけられたことは無い。
視界に入らない様にしていたと思われる。
だからアンジーが手紙で泣きついてきた時に、本当は私に手紙を出すのも嫌だったのだろう。
「気付けなかった」
「だと思いました」
「あれを自由にさせていたのは私の責任だ。今のこの家の経済状態がどんどん下降線をたどっているのは確かだ。しかも私の代になり結婚してから顕著に! 気付くのが遅かった」
「主要な原因は何ですか? 建て直しにはその分析が必要だと思いますが」
「ああ、それは分かっている。一つはあれに浪費させたこと、もう一つは、私の無能さだ」
「お母様のご実家の方や、叔母様がお世話になった方へご相談なさいましたか?」
「いや、それはできない」
「何故でしょう」
「あれの実家に、結婚する時に言ってしまったのだ。不自由させないから、と。あれを誰にも取られたくない、と思ってしまったのだ。今更それを違えれば離婚だろう。それは嫌だ」
「何故です?」
「決まっている。お前の母親をどうしようもなく愛してしまっているからだ」
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