60 第四との合同祭④

「何で、とはどういうことですか?」


 アリータ前総代は衣装の派手さにもかかわらず、昨年第一の全生徒の見本となった所作で発言主にへと近付いて行った。


「はい、だって、男の人って綺麗なものが好きじゃないですか。だから横であっても迫られて選ぶのは男の人じゃないですか。愛し合う二人の仲を裂くなんて、それは世界がおかしいんです!」


 いや、おかしいのは貴女の頭だ。

 ぽん、と自分の中でそんな言葉が湧いて出た。

 そしてぽん、とリューミンは私の肩を叩いた。


「……やるかやるかと思っていたら、本当にやるのね…… あの子……」

「だからこそのヘリテの人選でしょ」

「だけど貴女の妹、あれが前総代であるとか、あの学年で最も位の高い令嬢だってこと」

「うーん、たぶんあの分だとこの先こう続くかな」


「「だって、婚約者より恋人の方が綺麗で可愛いじゃないですか」!」


「母の手紙見たでしょ? あの子の価値観そこでおかしくなってるし、それを疑いもしてないのよね。さすがに向こうの二年は今相手にしているのが誰なのか知っているから、アンジーを止めようとしている」

「あー、あれが二年」

「二年は一応各総代の顔くらいは知っているのじゃないかしら」

「でも貴女の妹は」

「まあ~興味ないだろうからリスティン総代の顔も覚えていないのじゃないかしら」


 そう、これも向こうからのリストからヘリテージュが積み上げた情報なのだが。

 既にこの妹は、男子校との境目で、何かとお喋りに勤しんでいるそうだ。

 何度も見つかっては逃げて、を繰り返しているらしい。


「確かに綺麗で可愛いから、第四男子は寄ってくるんでしょ」


 ちなみに五位か六位あたりに、校則を無視して男子校に押しかけてくる女生徒、というのもきっちり置いた。

 その時二年生らしい二、三人の表情が変わるのが分かった。

 どうやらやっていたらしい。

 だが顔色が変わったあたり、まだ改善の余地あり、ということだろう。

 前総代は暴挙に出たアンジーにゆっくりと近づき。


「お名前は?」


 実に優しくお尋ねになった。


「アンジー・ウッドマンズですわ!」

「そう、ではアンジーさん、貴女がそう思うのは貴女の勝手ですが、婚約というのは、寸劇でも述べた様に家と家とのもの。それこそロマンス小説で真実の愛を見つけて二人で愛の逃避行をするなんてことは現実では不可能ですのよ」

「そんなことはありません! 愛があれば!」

「では貴女は愛でお腹が膨れるのですか? 一位の結末は、男女どちらも裕福な家から追い出されます。貴族としてやってきて、その義務を捨てた二人に明日はあるのでしょうか?」


 素晴らしい笑顔で前総代はアンジーに尋ねた。


「それはあるに決まってます。誰にでも明日は」


 そこまで来ると、背後の二年生達がさすがにアンジーを止めるタイミングを測って目で合図を送っているのが見えた。


「……そうですか。それでは私は貴女の人生にも幸あれと願うことしかできませんね」

「わ、ありがとうございます!」


 いや違う、それは嫌味だ。

 幸あれと願う「しかできない」つまりアンジーはこのままだと不幸にしかならない、と言っているのだが。

 ……まあいいか。

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