59 第四との合同祭③

 舞台の上の「問題の二割」の声が、生徒によってはおずおずとしたものになってくるのが舞台横で寸劇の支度をしていた私には露骨に分かった。

 舞台の上だというのに、後ろで固まっている集団がこそこそと耳打ちしあう様は、やはりと言うか何というか。


 第三位は有名俳優に群がる令嬢の姿。

 有名俳優に扮したセレに、先輩達がここぞとばかりに群がっては、

「サイン下さい!」

「握手してください!」

「彼女にしてください!」

……と、どんどんヒートアップする要求をしていく図。


 第二位は一人の調子いい男のところに侍って「自分が一番」とばかりにアピールする女達。


 そして待望の第一位は。


「……頼む…… 君との婚約を破棄してくれ……」

「何故ですの?!」

「僕はこの乙女を愛してしまったんだ……」

「何故ですの? 私達の結婚は、家と家とのつながりを求めたもの」

「君が嫌いという訳ではない、だが彼女は僕を誰という訳でもなく愛してくれる!」


 そう、婚約破棄茶番だ。

 横入りの変形とも言えるし、結果とも言える。

 だがそれを遊びだけにしておくか、本気にさせて男の自滅につなげてしまうかで、堂々の第一位にされたのだ。


「うーんさすが第一と第二の男子!」


 リューミンはにひひ、と淑女とはかけ離れた笑みを浮かべた。

 この男女の自滅エンドまでを見せつけられた「問題の二割」の大半は照明の下、声が震えていた。

 そしてその後、演じていた第一の五年からの感想と、第四生徒への「感謝」の言葉があった。

 去年の総代――母君が降嫁した皇女であり、父君が宰相であるサムエ公爵のアリータ嬢は「横入り」系の役を自滅エンドまで嬉々としてこなしていた。

 そんな彼女はここで、かぶっていたてんこ盛りのかつらを取ると、うって変わって気品ある令嬢の顔になった。

「皆様のご協力のおかげで、素晴らしい体験と、またこの様な女になってはいけない、という例を見せることができたことを非常に嬉しく思います」

 すると観客席からは大きな拍手。

 特に第四側からの拍手の音が大きかった様に思えたのは気のせいだろうか。


「今回私達高学年がこちらの役回り、そしてそちらの下級生にそちらの役回りにいたしましたのは、今から気持ちの中に実際の男子生徒達がどう思っているかをきちんと押さえておくことが、無謀な行動への歯止めとなると思ったからです」


 本当に通じているのだろうか、という疑問はあった。

 だが「え? あれっていけないの?」と純粋に疑問に思ってしまった者が「問題の二割」の下級生達から、全部でなくとも! 少しでも! 出ればいいな、と私は思ったのだ。

 だがここで予想しなかった反応が。

 「問題の二割」の中からぱっ、と勢いよく挙げられる手が。


「わかりません! 何であれが嫌われるのですか!」


 全体の視線が発言主に注がれた。

 明らかに不服そうな集団。

 一年生。

 予想しなかったのは、やはり甘かったのだろう。

 アンジーめ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る