50 来年の話をすると何かが笑う

 その年の夏期休暇は再び北西辺境領へと向かった。

 一年の時と同じメンバーだ。


「何処かにお世話になるとしても一番貴女のところが気楽だし気持ちいいよ」


 セレもそう言った。

 やはりなかなか総代の役は彼女でも疲れるものがあったらしい。

 夏期休暇はのんびりしたい、と思った様だ。

 ちなみに実家に戻らなくてはならないヘリテージュはこの時はエンジュとキリューテリャの二人を自分の家に招いていた。


「上位貴族の家も見ておくといいと思うの」


 半分は方便だろう、と皆思った。

 結局元の長さに髪は皆戻っていないのだ。

 だが長いままのエンジュと、自分と同じくらいの長さのキリューテリャを連れて行くことで、学校で必要なことなのだう、と家には思わせる目論見があるのだろう。


「それに、うちは子供のお客が来るとともかくいい顔見せたいところだし。それに二人に見ておいて欲しいってのも確かなのよね」


 エンジュもキリューテリャも資産はともかく、下位貴族である。

 異なる環境を友達として体験できるのはそう長くない、ということだ。

 しかもこの二人は確実に上の学校には行かないことが既に決まっているらしい。

 上の学校。

 セレはもう行くつもりで勉学に励んでいるし、疲れるという総代も、心証を良くするための手段の一つと考え行動するだけの根性と度胸がある。

 そしてヘリテージュは、というと。


「あとね、婚約者が今年は来てしまうの」


 そう言って苦笑した。


「こんやくしゃ」


 それを聞いた時には、皆ぽん、と現実に戻された気分だった。


「そう婚約者。割と昔から決まっていてね。まあ嫌いではないけど」


 ヘリテージュにしては、今一つ歯切れの悪い言葉だった。



 そして再び訪問した北西辺境の地で、私とセレはリューミンから驚きの言葉を聞いた。


「二人には絶対来年の冬には来て欲しいんだけど」

「ちょっと待ってそれ卒業試験時期!」

「むむむ」

「実際冬を過ごしてみたいとは思ったよ。だけどさすがに来年の冬は……」

「だって、来年の冬に私結婚するし」

「「は?」」


 私とセレは、支線列車の中で同時に 声を上げた。


「けっこん?」

「卒業前に? 婚約者がいるとかそういう話でなく?」

「うちの方では結婚式は皆箱の家に居る冬にするのよ。集いやすいし。……セレはうーん…… 上の学校の試験があるのよね」

「状況如何だな」

「と言うと?」

「推薦入学の試験は、冬期休暇より早い。ただそのためには、トップを走り続ける必要がある。だから今年の総代の役をやり遂げることと、来年の勉強次第。できれば行きたい」

「私も行きたいわよ。前々から冬の箱の建物の生活を知りたいって言ったでしょう? 私。あと単純に貴女の結婚式には出たいわ」

「無理言ってるとは思うけど、ごめんね」

「それはそれ。で、これから行ったら会わせてくれるんだろうな?」


 セレはにやりと笑った。

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