41 妹と対峙する②

「持たないと何か悪いの?」


 張り上げた声にアンジーは怯み、ぐっとソファに背を押しつけた。


「それでよく外出許可が出たわね」

「外出許可?」

「……」


 何となく聞くのが怖くなってきた。

 私は立ち上がり、窓の方へと歩き出す。

 そして大きく窓を開けると。


「フリスラ先生! その子達が生徒手帳を持っているか確認して下さい! 警備員さんは第四にすぐ連絡をお願いします! 外出許可を取っていない生徒がこちらに押しかけていると!」

「え!」

「第四では寮則の説明会も無かったの?」


 アンジーはむっとして黙り込む。


「説明会はあったはずよ。舎監の先生の主催なのだから。その際に絶対に言われるはずだわ。外出の行き先が何処でもは構わないけれど、その際には必ず許可を取り、そして生徒手帳を携帯する様にと」

「覚えてないわ」

「覚えていないじゃ済まないわ。こちらからはそういう生徒を見つけたら、そちらの学校にすぐに連絡を取って引き取ってもらわなくてはならないわ。そもそも生徒手帳を持っていないということは、貴女が本当に第四の生徒であるか、ということも証明できないの。貴女の頼みどころじゃ」

「酷い!」


 言葉を遮り、ばん、とアンジーはテーブルを両手ではたいた。


「何でそんな意地悪なこと言うの? 私はただ、せっかくお姉様が居るというから、皆に自慢しようと思ってきたのに」

「本気でそう言っているの?」

「本気よ! 全然私と似ていなくて地味なお姉様だけど、頭はいいから第一に居るんだ、って自慢したんだから! そうしたら友達が紹介してって」

「だったらきちんと手続きを踏みなさい。それに、さっきの寮則の意味を分かっている? 貴女方はこちらの寮の見学はできない」

「えーっ? だって今年は合同祭は第一と、って先輩方が寮に押しかけて、男装の麗人に会いに行こう、ってお話していたわ! 先輩方が良くって、どうして私達がいけないの?」

「合同祭の準備は一緒にするけど、それは寮じゃないわ。あくまで学校の校舎内でよ。寮には入れません。それがそちらの最高学年だろうが自治会だろうが」

「でも困るのよ! 私友達にもうそう言っちゃったんだから!」

「無理」


 私はぴしゃりと言うと、アンジーの手を取って立ち上がらせた。


「な、何するの」

「今の貴女は不法侵入なの。だから警備控え室で第四の先生が来るまで預かってもらうのよ」

「ちょっと待って」

「待ちません。貴女は帝都の女学校に入ったということをもう少し自覚なさい」


 そのまま腕を掴んで外へと連れて行く。


「フリスラ先生!」

「ああ、テンダーさん。生徒手帳を持参していたのは五人中三人。二人は持っていませんでしたよ。第四にはさっき警備から電信を打ってもらいました」

「ありがとうございます。手帳はこの子も持っていませんでした。それ相応の手配をよろしくお願いします」

「分かったわ。……でも、いいの?」

「最初からこれでは先が思いやられます」

「え、何? こちらお姉様?」


 アンジーが連れられてきたことに気付いた第四の生徒達がやや騒ぎ出した。


「本当にアンジーとは全然似ていませんね、でもその制服、とても格好いいです……」

「ありがとう。貴女方はきちんとこれから学校の規則を守って下さいな」


 顔を引きつらせつつ、私はそれだけ言うと、アンジーをも先生に任せた。

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