40 妹と対峙する①

「テンダーお姉様!」


 扉が開くや否や、アンジーはそう言ってソファから立ち上がった。

 灰青の制服の胸元には細い薔薇色のリボンが蝶結びにされて付けられている。

 ああ、早速違反しているな。

 元々の制服にリボンは無い。

 しかも薔薇色。

 灰青の生地にはずいぶんとよく映える。

 だがそれは違反だ。

 見つかり次第没収される。

 あの第五の生徒にしても「制服を着ている時には」違反はしない。

 まあ彼等は、活動内容が内容だけに、制服は普段はあまり着ていないのだが。

 控え室には四人くらい掛けられるソファと、卓が一つ。

 対面には一人掛けのソファが二つ。

 長居する場所ではないせいだろうか、この部屋はいつも綺麗に整っている。

 そのリボンの輝く胸の前で手を組み、私に向けてきらきらと目を輝かせて期待の視線をアンジーは向けてくる。

 それを右から左に受け流し、私は一人掛けのソファに座った。

 するとアンジーは私の正面にぐいっと迫りつつ、こうがなり立てた。


「お姉様! お友達が第一の寮を見たいって言うの! お願い、舎監の先生にお姉様からお願いして頂戴!」

「まず座りなさい」


 私はうながす手を差し出しながら彼女に淡々と命じた。


「外にお友達が待っているの! 私、第一にお姉様が通っているから大丈夫って言ってしまったの! このままじゃ私、嘘つきになってしまうわ!」


 なかなか座る気配の無い妹に、私は手を差し出したまま黙り続ける。


「構わないでしょう? だって、今お姉様、自治会の幹部でもあるんでしょう?」


 何処からその情報を仕入れたのか。

 ああ面倒だなあ、と思いつつ、それでも次の言葉は発しない。

 ちら、と目だけで窓の外を見る。

 フリスラ先生は警備員と共に少女達の方へ近付いて行く。

 向こうの少女達の名前も書き留めておく必要があるのだろう。


「どうして黙っているの? 私がこんなに頼んでいるのに!」

「まず座りなさい、と言ったでしょう? それもできない?」


 しぶしぶ、といった調子でアンジーはソファに座り直した。


「座ったわ! そうしたら聞いてくれるのよね!?」

「どうしてそう思うの?」

「え? だって、テンダーお姉様は」


 私はスカートの内ポケットから生徒手帳を出す。

 官立の女学校の生徒全てに入学時に配られるそれには、全校共通の規則が書かれている。


「……寮則第三条第二項。寮生への訪問は、家族及びそれに準ずる者に限る。その際も、寮内の見学は禁止する。――入学時にもらったでしょう? 貴女も」

「え? 何それ」

「制服のポケットにいつも常備する様に言われているでしょう? 生徒手帳を。入学した時に貰っているはずだわ」


 ぱたぱたとアンジーはスカートの上からその存在を探そうとする。


「持ってないわ」

「持たずに外出したというの!」

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