31 大きすぎる問題はすぐに答えを出してはいけない
「気付かなかったの? 今まで」
「急激に下がったのはここ十年程です」
ジョージはぐぐっと落ちる折れ線グラフを示した。
「……私の言いたいことはお分かりでしょうか」
「分からないでもない。けどだったらまず私の様な子供に言うのではなく、お父様に言わなくてはならないのでは?」
「進言致しました。すると、何処か良い提携先を探せ、とのこと……」
成る程。
領地経営の業績はどんどん落ちている。
それも特に父の代になってから。
おそらくはジョージが言ったところで何も聞きはしないのだろう。
かと言って、たかが女学校一年生の私にまず聞かなくてはならないのか?
「他には聞いた? 例えば叔母様がお世話になっていた家とか、お母様の実家とか。少なくともこの家に娘を嫁がせた家というのは、没落は好まないんじゃないの?」
「ではそれに関してはテンダーお嬢様のご意見ということで宜しいのでしょうか?」
「あー…… そうね」
私は天井を仰いだ。
なるほど、その辺りの責任が取れないということだな。
とは言え、今の私に何かすぐできるという訳でもない。
「お手紙を書くわ。ともかく私はその親戚の方々というのを殆ど知らないのだもの。休みはそう長くないから、ともかく資料をまとめてくれる? 学校に持っていって考えるから。ここじゃあ考えがまとまらないわ。休暇なのに」
そう言って肩を竦めた。
「では」
ジョージはそう言うと私に軽く頭を下げた。
「……正直、不安なのですよ」
「だったらとりあえず温かいお茶を呑んで行くといいわ。ミルクたっぷりの!」
*
「ただいま戻りました」
「うむ。変わりないか」
「はい」
「ではいい。食事にしよう」
正餐の席、父はそれだけ言って食事を始めた。
格別な会話がある訳でもないので、私は妹の様子を眺めた。
なるほど、これまたずいぶんと可愛らしく育ったものだ。
豊かな明るい色の髪に絹の青い細いリボンがよく似合う。
首筋の甘い白さにこれがまた、リボンより少しだけ深い色のドレス。
大きめの襟にレースをふんだんにつけ、袖もたっぷりとしたもの。
確かに両親が連れ回したくなる様な容姿に育ったものだ、と今更の様に思った。
黙っていれば、話で聞いた様なことなど何処の空、という感じなのだが。
ただ。
かちゃかちゃ、と音が耳に届く。
成る程。
容姿が綺麗、そしてそれに似合うドレスだからこそ、ちょっとした所作のずさんさが目立つのか。
ふと私は、ポーレが言っていたピアノの話を思い出した。
だいたい合っているのに、時々おかしな調子になるから……
……ここに居る間に聴けるだろうか?
やがて一通りの食事が終わり、食後の茶を口にしつつ、父が再び口を開いた。
「学校の成績は此方にも届いている。優秀な様だな」
「ありがとうございます」
「そのまま落とさぬ様に」
「はい」
言われずとも、落とす気は無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます