第3話 モブの憂鬱『無意識の矛盾』

02

 主人公や他人が文学少女アリスとの物語を進めることを期待するよりも自分が恋人に立候補した方が早いかもしれない。

 ゲームにおけるアリスは気弱なところはあるが、それは他者を傷つけぬよう考えすぎて自分の考えを伝えられないことが理由であり、心根の優しい少女である。

 少しばかり野暮ったい丸メガネを掛けているが、肩下まで伸びるつややかな黒髪に華奢な体つきで、どこか小動物チックな守ってあげたくなるタイプの美少女だ。

 性格と容姿は問題ないどころか非常に高条件で、読書好きという点で俺と趣味も合うだろう。

 そんな彼女と俺が付き合う?

 ありえない話だ。


 アリスは可愛くて性格もいいが、相手となる俺の方は違う。

 容姿は平凡だが、それ以外はマイナスに評価されるところが多い。

 多少意識して改善するようにはしているが、口を開けばどうにもぶっきらぼうな口調になってしまうところがまず挙がるだろう。

 それ以外にも目つきが悪く、普通に見ていただけなのに睨まれたと怯えられたり、敵視されるのなど日常茶飯事である。

 それ以外の点も含めた俺という人間を客観的に判断すれば、誰かに好かれるような人間だとは到底思えない。

 少なくとも俺なら俺みたいな人間を恋人にしようとは思わないだろう。

 それどころか友人にすらしようと思わないな。

 まあ、友人や恋人がほしいとも思わないのでその点はまったく問題ない。

 友人や恋人が無駄だとか煩わしいだけなどとは言わないが、他人に合わせて自分を変えてまで欲しいとは思わないという話である。

 口調を改善するよう努めているのは、あくまで仕事や日常生活など友人や恋人がいなくても必ず存在する人間関係のためだ。

 そんなわけで、俺がアリスの恋人になるという考えはありえない。


「はぁ……」


 授業を聞きながらもそんな益体もないことを考えて溜息がこぼれてしまう。

 どれだけ状況を改善するための方法を考えたところで無駄なのだ。

 結局のところアリスが誰かと付き合うか、明確にあの二人を拒絶するしかないのだろう。


 とは言え、実のところ、あの二人が言い争っているのはうるさいと感じているが、そこまで問題だと思っていない。

 前世では、一時期草食男子などと言われるほど消極的な男が多かったが、こちらの世界では圧倒的に肉食男子が多いようで、休み時間に女子生徒を口説こうとする男子は珍しくない。

 その際に目当ての女子生徒がバッティングして言い争う男子も多いのだ。

 つまるところ休み時間に騒いでいるのはあの二人だけではないということである。

 あの二人を排除したところで、結局教室が騒がしいのは変わらないのだから排除するために努力するだけ無駄だろう。

 俺にとっての実害は、せいぜい毎朝他人の尻が自分の机に乗せられていることぐらいである。

 退けと言えば素直に退くのは評価できるが、尻が乗せられていたという事実がなくなるわけでもないので気分的によろしくない。

 正直、机に突っ伏すことも戸惑ってしまう。

 とまぁ、そのぐらいだ。

 1週間も同じことを繰り返しているのだから、いい加減学習してほしいもんだ。

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