イラスト付☆婚約破棄を受けた巫女が次の聖女になりました。婚約破棄ありがとうございました!
愛LOVEルピア☆ミ
第1話 エシェッカは巫女で聖女で性悪で-1
https://kakuyomu.jp/works/16817139555093292257(ひとつ前の時代のお話)
https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817139554852017854(エシェッカ)
◇
神の意志を受けて宣託を下す巫女が存在している。その中から一人、特に国の大事を神から授かる女性を聖女という。一度その座に在ってからは、処女を失うまで決して他が選ばれることがない。
神の加護を受ける者を無理矢理に犯そうとすれば神罰が下る、これは脅しでも誇張でも無く事実。聖女を追い出そうとしてならず者を差し向けた不届き者が居た、乱暴を働こうとしたものは突如心臓が止まり、悪行を命令した者の家は断絶するような不幸が次々に起こりその力を失ってしまった。
それが一度や二度ではなかったので、王家では決して聖女を蔑ろにすることなく国を繁栄させてきた。が、此度の聖女選出の式典で異変が起こってしまう。国家が栄えるようにと、王位継承権順位は低いものの王族が聖女を娶り続けていたが、婚約をしていた巫女よりも意中の令嬢を選びたい想いで婚約を破棄してしまう。
王宮では慌てに慌てた、もしこれで王国が衰退でもしてしまうならば一大事。どうせ王位につけない王子は、妻位は好きに選ぶと言って話を聞こうともしない。必死の説得の結果も出ずに、ついに聖女選定式が始まってしまった。
部屋の片隅に居るのはエシェッカ、今年十七歳になる巫女。そして、王子に見捨てられた痛い女として世間から失笑されている最中。儀式の控室でも、他の巫女から半笑いで見られていた。
――儀式が終わったら絶対巫女なんてやめてやる!
選定の優先順位は当然のごとく最下位に下げられ、付き添いの修道女もつけられていない。元々お願いされて巫女になっていた彼女――エシェッカではあるが、多感な時期に人並みに恋をしたいと乗り気では無かった。それでも家庭の事情でお仕事だと割り切り引き受けていた。
――大体あの王子、あたしが婚約者になったって会った瞬間のあの顔。解るように嫌がるとかこっちが願い下げよ。まあ、王族はイケメンが多いのは認めるけど。
何をどうしたらそうなるのか、王家は美男美女が勢ぞろいしている。そういった血を集めて来た結果かもしれないが、不思議なものではある。とはいえ見た目と心は別物、ゆがんだ性格の人物の多いこと。口からため息が出そうな程失意の真っ只中、式典の係官でもある下級の貴族子弟が控室を行き来している。
大抵はお付きの修道女が雑務をこなしているけれど、エシェッカにだけは誰もついていないので係官が直接言葉をかけに隣に立った。
「エシェッカ様でしょうか。私、エトワール伯爵の子で、キャトルと申します」
「はい、私がそうですわ」
――婚約破棄の残念巫女で有名なあのエシェッカ。
自分を卑下するかのようなこたえをギリギリで飲み込んで最低限の言葉を返す。解っていて声をかけてきている以上、彼だってそのくらい察している。
「いま少し選定の儀に時間がかかる見込みです。よろしければ外の空気でも吸われてはいかがでしょうか。私がご案内いたしますが」
周りを見てここには居たくないと思ったのだろう、彼女は立ち上がると頷く。キャトルの後ろについて歩く、そうすれば用事があってそうしているだろうと見えるはずだ。
人の目がないバルコニーに出て、緞帳のようなカーテンを閉める。外の空気は穏やかで、陽射しは気持ちよかった。
「あのような場におられては気持ちが重くなります。どうぞお寛ぎを」
「どうして私に関わろうとするんですか、何も良いことなんてありませんよ」
「親元を離れて一人巫女の職務を全うしているのです、皆が尊敬の念を持って接するべきと私は考えておりますので」
真面目な顔でそう言われると、どこか気恥ずかしい部分はある。彼女は目を閉じて少しうつ向く。
――あの王子にこの十分の一でも節操があればなって思うわ。
個人を優先するのは王族ではない、それどころか君主として人の上に立つような存在とは言えない。公を優先し、己を殺す、それが貴族の務め。少なくともそうでなければ民は報われない。
「そうですか、真面目なんですねあなたは」
棘が抜けないような言い方をして、ちょっと自己嫌悪してしまう。でも今さら良いかとも思っていた。
「真面目とは少し違うかも知れません。伯爵家の四男など、手にするものなど何もありませんから、せめて自分の出来ることをしようと思っているだけです」
キャトルとは四番目の意味で、上に三人も男子が居れば割り当てなど無いに等しいのも理解出来た。
――それを世間では真面目って言うのよ。
少しばかり肩の力を抜いて微笑する。悪い男ではないどころか、貴族の中では珍しく心根が真っすぐだと知った。巫女という存在は、特にそういった階級の人物と接することが多いので、それなりの人数と話をしたことがあったから解る感覚。
「あなたみたいな方が偉くなってくれれば、色んな人が幸せになれるんでしょうね」
「どうでしょうか。ですが良かったです」
「なにがですか?」
「顔色が良くなられたようで。そろそろ控室に戻りましょうかエシェッカ様」
言われてみて、辛気臭いなにかが紛れていたことにようやく気付いた。なるほど、紳士とは彼のようなものをいうのだろう。
「キャトルさん、ありがとうございます」
――ふたりで一緒に居て気が楽になれるわね。こういうの、なんかいいかも。
控室に戻り雰囲気がおかしいことにあたりを窺うと、聖女の最有力候補が選定から漏れたと噂をしている真っ最中だった。二人目も落ちて、次々と順番に別室へ呼ばれていく。当然誰も選ばれないという事態もあり、そんな時は巫女の入れ替えをすることになっている。
「エシェッカ殿、こちらへ」
老年の司祭が名前を呼び招き入れる。聖像がある真下に、天使の姿を模したクリスタルが鎮座していた。それに両手を添えるようにと言われ、黙って従う。すると、クリスタルが輝き始めた。
「おお、次の聖女は巫女エシェッカが選ばれた!」
「え、私が?」
――全くの想定外! 神様も間違うことってあるのね。
控室に戻ると他の巫女たちがバツが悪そうにこちらを見ている。聖女は神の加護を受ける、そして国の庇護を同時に受ける。何を意味するかというと、当たり前のように発言力が爆発的に大きくなるということ。嫌われたら最後、遠ざけられるのはエシェッカではなく他の巫女たちということになる。
ひきつった愛想笑いで「おめでとうエシェッカさん」と言いに来るのが何人もいた。
――さっきまで半笑いで見下してたやつらのことなんて知らないわよ!
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