YOU & I

あおい

 

 暑い季節が過ぎる頃、オレたちは出会った。


 オレたちが通っている芸術大学は、絵画や陶芸などの美術分野の他に、ファッションや美容まで幅広く扱っていた。


「おい、マルク。

お前今度のショーで組む奴、決まったか?」


「いんや、まだ」


 実習室で集中できずに、ただただハサミを握っていた俺は、おざなりに友人のアレクの質問に答える。


「やっぱり」


「やっぱりってなんだよ」


苦笑するアレクを睨み付け、でもすぐに視線を人形の頭に戻す。


「お前、器用でうまいのに、雰囲気怖いから誤解されやすいもんなぁ。

オレのダチの先輩で、ファッション科でまだ決まってない奴がいるんだって。今3年ですごくできるらしいけど、注文が多いから相手がなかなか決まらないらしくて。

お前一回会ってみないか?」


「やだよ。そんなやつ。

めんどくせー」


「でも、来週までには決めなきゃだろ。

無理なら無理でいいから一回会ってみろよ」


「んー……」


うんともいいえともつかない返事をしたのに、「じゃあ今日の4時に305号室な」とアレクはヒラヒラと手を振って、とっとと行ってしまう。

 部屋に静寂が広がり、シャキシャキとハサミを動かす音だけが部屋に響く。

 髪を切るのは楽しい。どんな形にしようか、アレンジは、色は……。

 昔から忙しい両親に変わり、歳の離れた妹の髪を結うのが楽しかった。気がつくと、この道に進むことが、息をするのと同じくらい自然と決まっていた。

 美容雑誌を見ていると、女かよ、と揶揄われることもあったが、そんなことはどうでもよかった。大学に入学して半年。いつも1番になりたくて必死でやってきた。

 


 授業が終わり、ファッション科のある棟へ向かう。ダサいやつだったら速攻切り上げてやろうと階段を上がっていく。

 ガラリ、と教室の戸を声も掛けずに開ける。そして、扉の中の光景に目を奪われて動けなくなった。光を浴びて輝く美しいラインのドレス。肩口のデザインに針を打つ背の高い男が振り向いた。


「あっ、君がマルク?

はじめまして。ディミトリーです」


「あ、あぁ」


 オレは呆けた顔で、間抜けな返事をする。目はまだドレスに釘付けになっていた。

 ディミトリーと名乗った男が近づいて来て握手を求める。オレは、そこでやっとドレスから視線を外すと、握手しながらディミトリーを見た。優しい茶色の双眸と黒い癖っ毛。背は高いけど、女みたいに線の細いやつ。それがディミトリーの第一印象だった。


「君の作品を見たんだ。

僕と一緒に組んで欲しいんだけど、いいかな?」


 あのドレスを見た時点でとうに答えは決まっていた。


「ああ。よろしく」


 それから、3ヶ月後のショーに向けて、ディミトリーとの共同作業が始まった。

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