YOU & I
あおい
①
暑い季節が過ぎる頃、オレたちは出会った。
オレたちが通っている芸術大学は、絵画や陶芸などの美術分野の他に、ファッションや美容まで幅広く扱っていた。
「おい、マルク。
お前今度のショーで組む奴、決まったか?」
「いんや、まだ」
実習室で集中できずに、ただただハサミを握っていた俺は、おざなりに友人のアレクの質問に答える。
「やっぱり」
「やっぱりってなんだよ」
苦笑するアレクを睨み付け、でもすぐに視線を人形の頭に戻す。
「お前、器用でうまいのに、雰囲気怖いから誤解されやすいもんなぁ。
オレのダチの先輩で、ファッション科でまだ決まってない奴がいるんだって。今3年ですごくできるらしいけど、注文が多いから相手がなかなか決まらないらしくて。
お前一回会ってみないか?」
「やだよ。そんなやつ。
めんどくせー」
「でも、来週までには決めなきゃだろ。
無理なら無理でいいから一回会ってみろよ」
「んー……」
うんともいいえともつかない返事をしたのに、「じゃあ今日の4時に305号室な」とアレクはヒラヒラと手を振って、とっとと行ってしまう。
部屋に静寂が広がり、シャキシャキとハサミを動かす音だけが部屋に響く。
髪を切るのは楽しい。どんな形にしようか、アレンジは、色は……。
昔から忙しい両親に変わり、歳の離れた妹の髪を結うのが楽しかった。気がつくと、この道に進むことが、息をするのと同じくらい自然と決まっていた。
美容雑誌を見ていると、女かよ、と揶揄われることもあったが、そんなことはどうでもよかった。大学に入学して半年。いつも1番になりたくて必死でやってきた。
授業が終わり、ファッション科のある棟へ向かう。ダサいやつだったら速攻切り上げてやろうと階段を上がっていく。
ガラリ、と教室の戸を声も掛けずに開ける。そして、扉の中の光景に目を奪われて動けなくなった。光を浴びて輝く美しいラインのドレス。肩口のデザインに針を打つ背の高い男が振り向いた。
「あっ、君がマルク?
はじめまして。ディミトリーです」
「あ、あぁ」
オレは呆けた顔で、間抜けな返事をする。目はまだドレスに釘付けになっていた。
ディミトリーと名乗った男が近づいて来て握手を求める。オレは、そこでやっとドレスから視線を外すと、握手しながらディミトリーを見た。優しい茶色の双眸と黒い癖っ毛。背は高いけど、女みたいに線の細いやつ。それがディミトリーの第一印象だった。
「君の作品を見たんだ。
僕と一緒に組んで欲しいんだけど、いいかな?」
あのドレスを見た時点でとうに答えは決まっていた。
「ああ。よろしく」
それから、3ヶ月後のショーに向けて、ディミトリーとの共同作業が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます