【96】誰もフォローしてくれない


 ディル君にダメ出しされた私。

 けれど、不思議とその場は収まってくれた。

 今にも袋叩きを始めそうだった会場のみんなが、急に冷静になって引き返していくんだよ。


 何か皆、口を揃えて、


「仕方がないなパーさん」

「もう馬鹿な真似はするなよパーさん」

「食べたらきちんと歯を磨くのよパーさん」


 と言う。


 そんなに気に入ったかパーさん。

 良かった。

 魔王パーなんとかさんって、やっぱ呼びづらいもんね。


「主様に手を出すとこうなるのだ、肝に銘じておけパーよ」

「ディルお兄様の言うとおりですわ、命があるだけ有り難いと思って下さいましパー」


 ……身内の二人は容赦ない。


「聖女様。このパーの方はいかがいたしましょう」


 そしてピュアな分さらに非情なのがカラーズちゃんたちだった。

 今このときほど、敬称って大事だと思ったことはない。私学んだよ。


 ――パーさんを見る。

 彼はうつむきながらその場でプルプルと震えていた。

 さすがに気の毒になって、声をかける。


「ま、まあまあ。皆の言うことは気にしないでパーさん。悪気があるわけじゃないんだしさ」

「ありますよ主様」

「あるに決まってるじゃないですかお姉様」


 君たちは黙ってなさい。

 どっちが魔王側かわかったもんじゃない。


「ほら。闘技場の周りには露店がいっぱい出ていますよ。美味しい食べ物もあるし、お腹がいっぱいになればネガティブな気持ちも少しは楽になるから」

「くっ……!」


 パーさんが拳を握る。

 いけない……すごく怒ってる?

 その怒り。ちょっと共感できるのが哀しいよ私。

 周りからいじられまくるのに誰もフォローしてくれないって辛いよね。


 大丈夫。今は私がフォローできる!


「我は……我は魔王パー――レグズィギスゥトゥだ!」

「うんうん! 魔王ってすごいよね! あと一瞬だけ自分の名前忘れかけたよね! ドンマイだよパーさん!」

「うおおおおおっ、聖女ぉぉおおカナデぇえええぇえっ!!」


 ……え?

 雄叫びを上げた直後、パーさんの身体から凄まじい魔力が噴き上がった。

 それこそ、魔王の名にふさわしいほどに。


 そしてパーさんは――。

 私に飛びかかってきた。


「我が伴侶にいいいいぃぃ!!」

「きゃああああああっ!?」


 暗黒の魔力を漲らせた男に対して、私は咄嗟に聖杖を振った。


 ほとばしる光。

 吹き飛ぶ暗黒。

 美しく輝く聖杖。

 遠く北東の空に消えていく声。


 ……あー、パーさん? パーさーん?


『勝負あり。聖女カナデ様の優勝。お疲れ様でした』


 お父様!?

 

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