【81】仕方なくなる酒


 ――とにかく。

 このお酒がヤバいのはわかった。

 そうなると心配なのが、アムルちゃんたちの方だ。


 アムルちゃんお父様が持ち帰った素材……。レギエーラでの酒造りはウチみたいにぶっ飛んでないと思うけど、どんな代物ができるか想像ができない。


「ディル君。レギエーラに行こう。アムルちゃんたちが心配だから」

「なるほど。確かに向こうの酒造りは気になりますね」


 私はカラーズちゃんたちに向き直る。


「出かけてくるね。ヒビキのこと、よろしくお願い」

『かしこまりました。聖女様』


 深々と礼をしてから、スカーレットちゃんが眉を下げる。


『それで……こちらの酒造りはいかがしましょう』

「当然、全力稼働を――」

「しばらくお休みね。私が見ていないところで作業はしないように」


 突っ走らせようとする弟わんこをぴしゃりと制する。


 それから私たちは、カラーズちゃんたちの見送りを受けながらチート城を発った。

 ちなみに、アムルちゃん用の転移魔法は敢えて使わない。

 あの一家のことだから、どんな場所を転移先にしているか予想がつかない。怖くて使えません。


 ――まあそんなわけで、レギエーラに到着。


「見たところ、おかしなところはなさそうね」


 城壁入口から中に入る。

 顔なじみになった衛兵さんにしっかりと挨拶してから――いつもご迷惑をおかけしています――、まずはギルド本部へ向かう。


 好奇の視線がちょっと気まずい。


 カウンターには、アムルちゃんの護衛の冒険者さんがいた。

 挨拶がてら声をかけ、アムルちゃんたちの近況を聞く。


「最近、お嬢一家は家を空けることが多いんだよなあ」


 首を傾げる冒険者さんに、私はちょっと嫌な予感を抱く。


「どこに行っているか、ご存じないですか?」

「たぶん街外れの酒蔵だと思うんだが。カナデお嬢のところへ行く前から、酒造りがどうのと話がでていたからな」


 そう言って、酒蔵の場所を教えてくれる冒険者さん。

 礼を言いつつ、ふと疑問に思って尋ねる。


「街ではいつもアムルちゃんと一緒にいると思っていたのですが……今日はいいのですか?」

「いや、まあ。そりゃそうなんだけどよ」


 冒険者さんは気まずそうに頬をかいた。


「朝の祈りをしていたら、いつの間にかいなくなっちまうんだよなあ」

「祈り、ですか。敬虔な方だったんですね」


 ちょっと意外だと思っていると、冒険者さんは真剣な顔で言った。


「なあ嬢ちゃん。嬢ちゃんは……飲むと祈りたくて仕方なくなる酒、なんてものがあると思うか?」

「ごめんなさいすぐにアムルちゃんたち探してきます」


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