【59】遊園地ですのね


「はぁー……つ、疲れ……た……」


 私は寝室のクッションにぼふんと身を預けた。

 この人をダメにするクッションは相変わらず殺人的に心地よい。その心地よさが、私の心労を優しく解きほぐしていく。


 ――アムルちゃんのご両親が来訪してから、数時間。

 城の案内やら、身の上話やらですっかり気力、体力を使ってしまった。

 いろんな意味で強い。強すぎるあのご家族……。


 ようやく解放された私はヒビキとともに自室に戻っていた。アムルちゃんたちの帰還はディル君に任せている。

 横になりながら、今日のことをぼんやり考えていた。


 ……すぐ寝付けないってことは、相当疲れてたんだな。私。

 すでに寝息を立て始めたヒビキの髪をゆっくり撫でながら、私はひとりつぶやく。


「これからどうなるかなあ」

「なにかお悩みですか、お姉様」

「うん。私、あんまりご近所付き合いって得意じゃなくてね――っておい」


 ぐるりと寝返りをうつ。

 すぐそばにニコニコ顔のアムルちゃんが添い寝していた。


「お姉様、わたくしたちに遠慮は無用ですわ。どうぞ普段着のように使い倒してくださいな」

「こんなに自己主張の強い普段着を私は知らない」

「まあ、照れてしまいますわ」

「よく聞いてね。褒めてないよ?」


 ヒビキを起こさないように静かに身体を起こす。アムルちゃんも倣った。

 寝床に無断侵入したのはこの際、置いておこう。


「……帰ったんじゃないの、アムルちゃん」

「ディルお兄様が『気の済むまでここにいていい』とおっしゃったので」


 そんなこったろうと思いましたよ。

 ディル君の姿は部屋にない。怒られると思って退散したのかあのわんこ。


「それにしたって何時間も……何もすることないでしょうに」

「え? こんな広いお城、たった一日では回りきれませんよ」

「ウチは遊園地じゃないのよ」

「ゆうえんち?」

「遊具とか、イベントとか、皆が楽しめる広い遊び場のことよ」


 アムルちゃんが指を折って数える。


「歩くお城、古今東西の魔法書が集まる書庫、伝説の武具があちこちで見つかる地下通路、そこで繰り広げられたお姉様の武勇伝」


 にぱっと笑顔が返ってきた。


「お城は遊園地ですのね! 素敵ですわ!」

「ごめん私が悪かった。忘れて私のツッコミ。お願い」

「……?」


 可愛らしく小首を傾げたアムルちゃん。

 ふと、何かを思い出したように手を叩いた。


「そうだ。わたくし、お姉様にご提案があったのです」

「……なにかな?」

「お姉様、お酒になりませんか?」


 ……?

 ……??


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