ネムリヒツジ

Wkumo

 お気に入りの羊がいなくなってから数日経った。

 お気に入りの羊は夏に相応しくなく、果てしなく暑い上に熱中症にさせられる。

 目覚めては水を飲み、また目覚めては水を飲む……そんな生活を見かねた羊は自分から出て行った……のだろう。きっと。


 厄介な眠りを俺にもたらしていたのはあの羊だと思っていた。けれどどうやら違ったらしい。

 羊がいなくなっても俺は眠いままだし、糸が切れたように眠りに落ちてしまうのもそのまま。

 何もかもを羊のせいにしていた自分に罪悪感を抱く。そんなもの抱いたって羊が戻ってくるわけでもないのに。


「羊を知りませんか」

「さあ。こちらのカウンターにはいらっしゃってませんね」


「羊を知りませんか」

「自分から出て行ってあなたもそれを受け入れたんなら合意でしょ。こちらでは探せませんね」


「羊を知りませんか、羊を」


 よく考えたらなぜ俺は羊を探しているのだろう。

 今は夏。羊がいても熱中症になるだけなのに。


「羊を……」


 何かのせいにしたかったのかもしれない。このままならない人生を。わかりやすい原因があれば俺が駄目になった理由も説明できるし、大義名分、それだけ。

 それが羊だったのだと。

 きっと羊はそれを見抜いて出て行ったのだろう。

 俺が羊に甘えたから。

 甘えてはいけない。自立しようとしなければいけない。さもなければ生きる資格はない。

 羊はそれを伝えたかったのだろう。


「羊……」


 呼んでも一向に出てくる気配はない。それはそうだ、自分から出て行ったものが戻ってくるはずもない。

 俺は羊に嫌われていたのだろうか。

 わからない。

 無償の愛というものがあったと一時は信じたはずなのに。

 今では愛がわからない。


 あれは執着だったのだろうか。


 結局羊は戻ってこなかった。

 大義名分をなくした俺はお腹を空かしてただ眠っている。

 熱中症にはならなくなった、けれども起きたら水を飲む。

 何度も羊の夢を見る。あのもふもふが俺に触れる夢。

 夢の中で「今度こそは現実だろう」と思うのだが、目覚めると夢で落胆する。

 それでも眠る。

 次こそは現実になるかもしれないから。

 賭け事のごとく、俺は眠る。

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