『ボクはキミが好き』その一言で奪われた未来を取り返します

真那月 凜

本編

プロローグ

私はマリエル・アジアネス

魔術師の父レクサと専業主婦の母ベッキーの間に生まれ、2つ上に姉のシャロンがいる


仲が良くて優しい両親と、ちょっと意地悪だけど面倒見の良い姉と4人、ごく普通に幸せに暮らしていた

それが最初に壊れたのは姉が事故にあった時だ

臓器の損傷が酷く、移植以外では助からないと宣告された


「あなた…」

母が父によりかかる


「シャロンの血液型は珍しい型なのに…」

それは移植が絶望的なのではないかという言葉を含んでいた


「大丈夫だ。何としても助かる道を探して見せる」

父はそう宣言した通り移植してもらえる臓器を見つけてきた

姉は命を取り留め、2か月後には元通り元気になった

死の淵に立たされた姉は以前よりも優しくなった

元の生活が戻ってきたと私も喜んでいたのに…



*******



姉が退院した翌月、いつものように家族の団欒を楽しんでいると明日揃って出かけるからと父が言った

行先も目的も行ってからのお楽しみだと言われ、私は姉と色々想像して楽しんでいた


「よく来てくれたね」

家族4人揃って招待されたのはこの国で知らぬ人がいない権力を持った人物だった

カルア・デ・インディペイト

まだ若いこの国の建国に多大な貢献をした人だ

カルアは笑顔で私たちを迎えてくれた


「インディペイト様、本日はお招きいただき…」

「堅苦しい挨拶は抜きにしよう。子ども達が退屈しているんでな」

カルアはそう言って側にいる2人の少年を紹介してくれた


「長男のヨハンは11歳、次男のレオンは9歳だ」

「はじめまして」

レオンが愛想よく挨拶したのと対照的にヨハンは仏頂面のまま視線をそらした


「おいヨハン」

カルアが窘めるが改めることはなさそうだった


「お気になさらず。上が10歳のシャロン、下が8歳のマリエルです」

「「よろしくお願いいたします」」

父に紹介され姉と顔を見合わせてから頭を下げた


「父上、向こうに行っても?」

そう尋ねたのはレオンだった


「ああ構わん」

「ヨハン様、ご一緒してもよろしいですか?」

姉はヨハンに笑いかける

金髪碧眼のヨハンは王子様のような見目をしている

『王子様』は今の姉のマイブームだったから一目で気に入ったのが分かった

天使だと例えられる姉をチラリと見てヨハンは手を差し出した

姉は頬を赤く染めてその手を取った


「僕たちも行こう」

同じように差し出されたレオンの手を取ると優しく握りしめてくれる

少し離れてヨハンと姉の後について歩く


「事故にあったのはシャロンのほうだよね?」

「はい。でももうすっかり良くなりました」

「シャロンが好き?」

「ん~意地悪だけど嫌いじゃないです。事故にあってからは前より優しくなったけど…」

そう言うとレオンは笑い出す


「笑わないでよぉ…」

「ごめんごめん。でも正直な気持ちなんだろ?」

「…」

私は無言のまま頷いた


「理由を聞いても?」

「…色んなものを取られるの」

「取られる?」

「私の大切なものばかり…奪うような取り方じゃなくて…でも気づいたらお姉様のモノになってるの」

そう、面と向かって奪われたことはない

でも、何かのきっかけで姉のものになってしまうのだ


「そのことをご両親には?」

尋ねられて首を横に振る


「そっか…じゃぁ一人で苦しくなったらこの笛を吹いて」

レオンはそう言ってポケットから取り出した小さな笛のようなものを渡してくれた


「人間の耳には聞こえない音が鳴る笛なんだ」

「吹いたらどうなるの?」

「僕の使い魔の鳥が行く。足に手紙を括り付けてくれたら僕のところに届くよ」

レオンはこれまで誰にも相談できなかったことを聞いてくれるという

それはとても魅力的な言葉だった


「これは2人だけのヒミツだ」

「うん!」

私は頷き満面の笑みを浮かべた

その後も2人でしばらく話しながら歩いていた


「マリエル、早くいらっしゃい」

少し先で姉がこっちに向かって手を振っていた


「行こう」

レオンに手を引かれて走り出す

2人に追いついた後は4人で話したり遊んだりして楽しんでいた

レオンにずっとついて回る私を姉が呆れたようにからかうのをヨハンが笑って見ていた

でもヨハンにひとめぼれをした姉と同じように、レオンの暖かい空気に惹かれていた私は側にいれるだけで嬉しかったのだ



*******



1時間ほどたつと両親たちに呼び戻された

「どうだヨハン」

カルアの言葉にヨハンが一瞬レオンを見た


「ボクはキミが好き」

ヨハンはにっこり笑って私の手を取った


「「え…?」」

私と姉の声が重なった

この1時間ほどの間ヨハンは殆ど姉に寄り添っていたはずだ

私とは殆ど話もしてない

なのになぜその言葉が出るのかわからなかった


「そうか。じゃぁマリエル嬢で話を進めよう」

「…どういうこと?お父様」

姉が父の腕をつかんで尋ねる


「…ヨハン君の婚約者にマリエルが選ばれたということだよ」

「嘘!」

姉の言葉に私も同意したかった

思わず側にいたレオンの手を掴んでいた

レオンは周りに気付かれないようにしっかりと握り返してくれた


この日、8歳の私に惹かれた相手の兄という11歳の婚約者が出来た

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